作家・山本文緒 復帰作「アカペラ」

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海外から久しぶりに一時帰国する時に嬉しいことのひとつは、日本にいない間に出版された好きな作家さんの本の新刊をまとめて買えること。

好きな作家さんといえば、山本文緒、遠藤周作、江国香織、などなどなのですが、中でも、病気の為に最近ずっと新刊が出ていなかった山本文緒の本を日本に帰ったら買うのを楽しみにしていました。イギリスに行っていた3年の間に、新刊出てるかな・・?と思ったら、やっぱり出ていました!ばんざーい!!

早速「日々是作文(エッセイ)」「再婚生活(エッセイ)」「アカペラ(中編集)」の3冊を購入しました。

山本文緒の本に始めて出会ったのは10年位前。彼女の視点や感性が恐ろしくぴったり自分の好みに合っていて、それ以来、今まで出版されている山本文緒の小説やエッセイは、すべて片っ端から買って読んでいます。

普段本を読む時は乱読多読派で、小説もかなりの斜め読みをしてしまうことが多いのですが、山本文緒の本は、何故か一文一文に吸い付くようにじっくり味わって読んでしまうし、普段一度読んだ小説は二度読まない主義で、基本的に本棚の奥かBOOK OFF行きなのだけど、彼女の作品は、本棚の手前に置いて、ふとした時につい何度も読み返してしまいます。

山本文緒は、2001年に「プラナリア」で直木賞を受賞した女性作家ですが、直木賞受賞後、さあこれから作家活動も更に本格化という時に鬱病にかかってしまい、何年にも渡る闘病・入院生活を送っていた(闘病生活は、「再婚日記」のエッセイの中で綴られています)ということです。

今回3冊買ったうちの1冊、「アカペラ」は、彼女が鬱病克服後初めての作品集で、小説としては約5年ぶりの復帰作。

鬱で断筆後の復帰作って、まさにラフマニノフにとっての協奏曲2番と一緒だなぁと思いながら(ラフマニノフも鬱にかかり精神治療を受けた後、復帰作があの協奏曲2番)読み始めてみました。

「アカペラ」は中編3作から成る中編集。今まで、長編集か短編集が多かった山本文緒には珍しい構成です。そしてまずは文体や文章から受ける印象が、これまでの彼女の作品とかなり違っていて驚きました。

これまでの作品では、文章の小気味よさや辛辣さが持ち味だった彼女が、今回の「アカペラ」に含まれている3作品に共通した一貫した印象は、底知れない優しさと温かさと懐かしさと切なさと、読み終わった後の不思議な余韻。

私は特に2作目の「ソリチュード」が好きでした。20年ぶりに実家に帰る、ダメダメのスナフキン男を描いた作品で、特にストーリーの起伏があるわけでもない淡々とした作品なのだけど、読み終わって本を一度閉じて5秒位たった後に、涙がじわーーーっと溢れてきました。なんだこの時間差攻撃は・・・ T T

ちなみに3作目の「ネロリ」も、時間差攻撃が来ました。読み終わって新幹線を降りた後に何故か遅れて涙が。おかげで涙をぽろぽろ流したまま新横浜駅をスーツケース転がして歩くことに(笑)

山本文緒の、復帰後の新しい魅力は、この不思議な時間差余韻かもしれません。

「アカペラ」の単行本の帯には、次のようなキャッチフレーズが書いてあります。

「人生がきらきらしないように、明日に期待し過ぎないように、静かにそーっと生きている彼らの人生を描き、温かな気持ちと深い共感を呼び起こす感動の物語。」

人に心を許しすぎてしまうのが怖かったり、誰かを信頼しすぎることへ恐れや、目の前の幸せを受け取ることへの恐れは、一度あまりにも大きく傷ついたことがある人々に共通する、後遺症みたいなものなのかもしれない。

「前からママね、ハルイチおじさんとあんまり仲良くすると別れる時悲しいよって言ってたけど、違うよね?」

二作目「ソリチュード」に出てくる一花ちゃんセリフが、それを象徴している気がします。





産経ニュースのインタビューによると、この本のテーマの一つは「アンチキラキラ」だとのこと。誰もが羨むキラキラな人生なんかじゃなくてもいい、でも目の前のあなただけの幸せは、安心して、掴み取ってもいいんだよ、という山本文緒からのメッセージのような気がします。


山本文緒のその他の作品のうち、特におすすめは

「群青の夜の羽毛布」(長編)
「あなたには帰る家がある」(長編)
「紙婚式」(短編集)
「きっと君は泣く」(長編)
「落花流水」(長編)
「かなえられない恋のために」(エッセイ)
「ブラック・ティー」(短編集)

などなど。
割と女性の視点による本が多いので、男性の方はどう感じるか分かりませんが、機会があったら是非読んでみて下さい。
by sayaka-blmusic | 2008-11-01 11:45 | 日本一時帰国日記
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