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ラフマニノフ -愛娘の誕生の時に生まれた一曲

5月7日(水)のラフマニノフリサイタルまで、あと1日となりました。

実は私、来月6月末の本帰国が決まったので、私自身の単独ソロコンサートとしては明日のコンサートが、ロンドンで最後のコンサートとなります。(あすかとのデュオコンサートは6月に別に行う予定ですが、ロンドンではなくブリストルで行う予定です)

今回のリサイタルに向けて、悩みに悩んだ末、厳選したラフマニノフの10の小品。それぞれ3分~5分程の短い作品ですが、一曲一曲が本当に珠玉の名曲です。

ちょうど先週木曜日発行分の英国邦人情報誌「ニュースダイジェスト」のインタビューで、「私の好きな¨癒し¨のラフマニノフの曲」というテーマで、今回のコンサートで弾く予定の曲のうちの何曲かについては答えさせて頂いたのですが、そこでは答え切れなかった曲で、私にとってとても思い入れのある一曲について、ご紹介させて頂こうと思います。

明日のコンサートで、2曲目に演奏するプレリュードのOP23-6番。

プレリュード集の中では特に有名という訳ではなく、決して派手な曲でもないのですが、目立たないところにぽつんと咲く一輪の花のように、静かな光を放つ名曲です。


この曲はラフマニノフが、最初の娘イリーナが産まれた時に書いた曲です。

娘の誕生、というと喜びに溢れた曲のはずなのに、私は単なる喜びや優しさだけでない、むしろ目の前に起きている奇跡や幸せを信じられないような、幸せとして受け入れるのが怖いような、そんなとまどいが聞こえてくるような気がしてなりません。

ラフマニノフの性格については、伝記によって色々違った説がありますが、私が一番信頼しているパジャーノフ著の伝記によると、ラフマニノフは、あれだけピアニストとしても、作曲家としても、世界的に成功したにも関わらず、死ぬまでずっと、自分の才能(特に作曲家としての才能)に自信が持てず、また人見知りで、傷つくのが怖い、繊細な一人の人間だったといいます。

これは映画などにも取り上げられているエピソードなので、ご存知の方も多いかもしれませんが、ラフマニノフが全精魂かけて作曲した交響曲1番の初演は、指揮者の失敗の為に悲惨な結果に終わり、批評家などからズタボロに酷評され、その為にラフマニノフは一時期、精神治療にかかっていました。

その後、治療により回復し、コンチェルト二番などで成功したもの、どんな賞賛をもらっても、本当に信じきることができず、常に自分の才能への不安と戦っていたそうです。

ラフマニノフは、頑固で口数少なく怖い印象だったと言われがちですが、そんな彼の外面の印象は「人から拒絶されるのが怖い」「傷つくのが怖い」という裏返しだったのかもしれません。


そんなラフマニノフが、初めての愛娘の誕生という、幸せの奇跡を目の前にした時に溢れ出てきた音楽 ― 喜びだけではなく「この奇跡を、もし喜びを持って受け入れてしまったら、また傷ついてしまうのではないか」というとまどいや恐れが交錯する、繊細で美しすぎる音楽― は、本当にあまりに切なくて、たった2分半の曲の中に、「巨匠」「天才」と呼ばれた裏に隠れていた、彼の普通の一人の人間としての一面を感じて、胸が痛くなります。


このプレリュード23-6を始め、先日のブログでもご紹介した交響曲第2番3楽章のピアノソロバージョンなど、、合計10曲のラフマニノフ小品プログラムから成る「Preludes +」のリサイタル、いよいよ本番が1日後にに迫ってきました。

まだまだ未熟な、1ピアニストとして、ラフマニノフの音楽の持つ本当の魅力や限りなく深い優しさやエネルギーを、どれだけ作曲者とお客様を繋ぐ媒体となって伝えられるか分からないけど、

もしコンサートにいらして下さるお客様のたった一人でも、今まで知らなかったラフマニノフの曲やその魅力に出会うきっかけになってくれたら、これ程嬉しいことはないです。

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5月7日(水)のピカデリーサーカスでのコンサート
「松本さやかラフマニノフリサイタル"Preludes +"」は、
St.Jame's Church, Piccadilly Circusにて、1時10分からです。
(チケット事前予約不要。Free Admission)
詳細はこちらから。
ラフマニノフの音楽に出会いに、是非いらして頂けたら嬉しいです!
by sayaka-blmusic | 2008-05-06 07:41 | ラフマニノフについて
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