月曜朝10時。いつものようにエルトン先生のレッスン室へ向かうと、誰だか知らない男の人がレッスン室で練習している。こういうことは音大ではよくあることなので、「すみませーん、ここレッスンで使うんでどいて下さーい」と言ってどいてもらおうとドアノブに手をかけた瞬間、ふとよく見るとその男の方、生徒にしては少し、いやかなり若くない年齢のような気が。
そういえば昨日エルトン先生が私の携帯の留守電に 「ソーリーさやか、用事があってアカデミーにしばらく来れないので、”なんとか”先生のレッスンを受けてねー」 と言っていた気がするけど、てっきり来週のことだと勘違いしてた。 もう一度留守電を聞き返してみると、土曜日に「next week」と言ってるので、これはどうやら今日のことだったみたい。だけど留守電を何度聞いても「なんとか」先生のお名前の部分が聞き取れずじまい(汗) とりあえず、今部屋の中でピアノを弾いていらっしゃる先生が今日のレッスンの先生だということは分かったものの、結局、その先生が一体どこのどなただか全く分からないまま挨拶をしてレッスン開始・・。 レッスンの曲は、この間Satz先生にも見てもらって今日は仕上げでエルトン先生に見てもらおうと思っていたエロイカバリエーション。 そしたら、 レッスンむっちゃくちゃ面白かったんです!!! なんだかノリノリの先生で、先生ご自身も英語が母国語ではないらしくGerman-Englishの辞書を引きながら、私もつたない英語を駆使しながらの危ういコミュニケーションだったんだけど、各パッセージをオーケストラの楽器や奏法に置き換えてみたり、ここはこう試してみようか、など色々話し合いながらのレッスンで、本当に楽しかった。しかも楽しいと同時に物凄く論理的で、それぞれの案の和声的な理由付けをきちんと説明してくれる。まさにExcitingという言葉がぴったりくるようなレッスンでした。Satz先生に見てもらって大分方向性が見えてきたエロイカが、更に一皮向けた気がしました。 レッスンが終わって、先生からお聞きした公式ウェブサイト等を後で見てみたら、なんとクールシュベール音楽祭はじめ、桐朋音大や世界各国のマスタークラスでも招聘されている、フライブルグ音楽院教授のGilead氏だったんですね・・・。 あやうく、そんな先生に向かって何も知らずに「すみませーんどいてくださーい」とか言っちゃうとこだったわけです私・・・・(汗) それにしても偉ぶったところの全くない、本当にフレンドリーな楽しい先生で、また機会があったら是非レッスンを受けてみたいなと思う。 ところで、アカデミーに来てから2ヶ月の間に、エルトン先生、Stott先生、Satz先生、Gilead先生、と計4人のレッスンを受けることができて、来週はRoscoe氏という先生のレッスンを受ける予定なのだけど、規定の学費内でこんなに色々な先生のレッスンが受けられるなんて、日本では考えられないこと。まず来日教授の特別レッスンを受けるには、私のいた大学の場合は、学費の他に別途レッスン代が必要だったし、第一、月に何度も受けられる機会なんてない。そもそも、「自分以外のレッスンは受けちゃダメ」という先生も多いみたいで、なかなか自由に色々な先生のレッスンを受けてみるということは、日本の音大では難しいのが現状です。それが、エルトン先生は生徒を外に出すのを拒むどころか、「せっかくフランスの作曲家の曲やっているなら、フランスものが得意なピアニストのStott先生のレッスン受けてみたら?」とか、「Satz先生は素晴らしい先生だから是非受けてみなさい」などなど、どんどんすすめて下さるので、本当に有難いし感謝です。マスタークラスのように観客つきだったり、日本での来日教授のレッスンのように通訳付きだったりするのではなく、泣いても笑っても、言葉が通じようが通じなかろうが、部屋の中1対1の体当たり状態で、なんとかコミュニケートしながら音楽を共に作っていく、という作業を何人もの先生とできるというのは、これ以上ない位貴重な経験させて頂いてるな、と思います。 私の個人的な考えでは、高校くらいまでは、一人の先生にじっくりつくのもとても大事なことだと思うのだけど、20歳位を過ぎて、色々な先生の意見を自分の中で統合したり選択しながら自分の音楽を再構築していくことができる年齢を超えたら、それ以降は、できるだけ多くの先生の意見をもらうということは、とても刺激になるものだと思う。 例えば、今回のエロイカバリエーションも、1ヶ月の間に計3人の先生にレッスンしてもらったことになるので、時々同じパッセージについて、ある先生は「スタッカートで弾いたら?」という提案、もう一人は「ノンレガート」、もう一人は「いやいや絶対ここはレガートでしょ」などなど、アドバイスがぱっくりと3通りに分かれることもよくある。けれども、「どう弾け」という結果のみの部分を鵜呑みにするのではなく、その背後にある「なぜそういう風に弾いた方が効果的なのか」という部分を、それぞれの先生からできるだけ汲み取って理解しようとした時、結果的に、自分なりに一番納得できる結論が、おのずから出てくる気がする。 そしてそれは、単に(1+1+1)÷3で算出した解答ではない、全く新しいオリジナルな答えに、なるのではないかな、と思う。
by sayaka-blmusic
| 2005-11-09 09:17
| ロイヤルアカデミー学校生活
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