「準備編」のつづきです。
ということで、ABRSM Grade Test(英国王立音楽検定)のジャズ部門を受けてみることにした私。先週木曜日がその本番でした。 この検定は、クラシック部門、ジャズ部門とも、年に3回、同じ時期にイギリス全土で行われているのですが、私の地元会場は、この小さな教会。 ![]() ![]() とってもとても分かりにくい案内表示・・。足下の水道管の横って、宝探しじゃないんだから・・(^-^;) このいい加減さがなんともイギリスらしいです(笑) ![]() そしてこちらが試験会場の入り口、教会の裏口です。 他の会場も、例えば小学校の一室や、コミュニティセンター(公民館)などなどで、様々な場所で地元密着型(?)で行われるのもこの試験の特徴です。 コンサートやコンクールはともかくとして、いわゆる「ピアノの検定」って、一体何年ぶりだろう・・。ある意味コンサートより緊張します^^; 今までこの英国王立音楽検定のクラシック部門の方は、自分の生徒さんに何十人にも受けさせてきたけど、スケールから初見演奏、実技試験まで、万遍なく用意して臨まなくてはいけない大変さとか、この狭——い寒——いチャーチの控え室で緊張して待たなくてはいけない緊張とか、生徒さん達の気持ちが初めてすごーーーく分かった気がしました。やっぱり何事も、自分でも体験してみるって、とっても大事だなぁと実感。 ちなみに、クラシック部門の方は小中学生の受験者が多いですが、ジャズ部門の方は、さすがに小学校時代からジャズに興味を持つ渋い子供は少数派なのか、私の見た限りでは、大人の受験者が多かったです。(もちろん小学生でも受験は可能) そして、この日の試験官が、なんと!!!! Tim Richards氏。 ![]() ![]() Schott Musicが出版している、ジャズの教本シリーズ「Exploring Jazz Piano 1&2」や、「Exploring Blues Piano」の著者として、ロンドンのジャズ教育界では超有名なジャズピアニストです。上の本の表紙の写真がTim氏本人です。 私自身、 Exploring Jazz Piano の本は1年位前に買って以来愛読していたので、びっくり!! ちなみに、この本は全英音楽産業協会 (MIA) から、Best Pop Publication 2006を受賞しています。 何より、Tim Richards氏は、この英国王立音楽検定のジャズ部門自体の創設や改訂自体に関わっているお一人。 他から聞いたところ、英国王立音楽検定の中でも、ジャズ部門の方はまだ歴史が浅くて受験者も少なく、また審査できる先生の数も少ないことから、このような大御所が直接審査にあたるんだそうです。なんて贅沢! ーーーーーーーーーーーーーーーーー 試験会場に入り、(おおおお、本当にTim Richardsだぁ〜)と興奮しながらいよいよ試験開始。 試験内容は「準備編」にも書いた通り、以下の4つ。 1. スケール&アルペジョ (長短音階、ドリアン、リディアンなどのモード音階などから当日指定。) 2. 課題曲3曲演奏 (ブルース、スタンダード、コンテンポラリージャズから1曲ずつ。テーマ→即興→テーマ変奏の流れ) 3. Quick Study (その場で楽譜を渡され、初見演奏に続いて即興演奏) 4. Aural Test(口頭試験と、連弾即興セッション試験) まずはスケールと、課題曲3曲演奏。「All Blues」と「Blue Bossa」と「Waltz for Autumn」。心配していた即興の部分もなんとか無事崩壊はせずに終えました。Quick Study(初見&即興演奏)の方は、ラッキーにもシンプルなBluesで、5拍子のコンテンポラリーとかだったら、即興演奏どーしよーかと思っていたので一安心。 そして最後に、Aural Test。口頭セクションを終えた後は、いよいよ試験官と二人で、連弾即興セッション試験!!! いくら試験の場とはいえ、Tim Richardsと二人で連弾セッションです!!贅沢すぎーーーー!! と興奮している間に、あっという間に終わってしまいました。うーーーーん、あと10分位続けていたかった〜。 そして、退室間際に(こういうこと試験の場で試験官に言っていいんだろうか)と迷いつつ、思い切ってTim氏に、 「あの、私あなたの本のファンです! 自習するのに使っていたのですが、素晴らしい内容でした!」と伝えると、 にっこりと笑って、「ちょうど先月末に新しいシリーズ「Exploring Latin Piano」を出版したところで、来週出版記念パーティ&コンサートを開くから良かったらおいで」と、招待券まで下さいました。感激・・(ToT) 思い切って話しかけて良かったー! ——————————————————— ということで、無事終わったジャズピアノ英国王立音楽検定。 生徒さんに今後ジャズ部門も受けてもらう前に、まずは自分自身が一度体験してみなきゃ、というのが動機でしたが、実際体験してみると、思った以上に私自身沢山学ぶことがあった試験でした。 なかなか客観的な視点では計りにくいジャズを、ここまできちんと体系化してある試験内容は、本当に素晴らしいなぁと思います。Grade5までしかないのが本当に残念。最高グレードのGrade5まで取っても、やはりジャズの導入部分でしかないので、クラシック部門のようにGrade6〜8まで新設されれば、もっと面白く可能性も広がるのではないかと思います。 ———————————————— 私が即興演奏を習っているTOM先生は、クラシックもジャズも即興演奏も幅広く教えている先生なのですが、先生いわく、生徒さん達がクラシックとジャズを平行して学ぶメリットは本当に大きいとのことです。 私自身、作曲を初めて以来、Bebop、モードジャズ、映画音楽、即興演奏など幅広く勉強するようになってから、クラシックの楽譜に対する見方も変わってきて、今まで「楽譜の丸暗記」でしかなかった曲の見方が、コード進行とそれに付随するメロディがどう絡まって行くかという見方に完全に変わり、和声感や耳の使い方がガラっと変わっただけでなく、クラシック曲の暗譜も飛躍的にラクになりました。あと、前にも書いたことがありますが、ラフマニノフ等の曲の分析は、クラシックの和声分析よりも、ジャズのコード理論に基づいた和声分析の方が、何倍も効率が良いこともあります。 日本でも、ジャズやポップスをレッスンに取り入れているクラシックピアノの先生方も増えてきているものの、その多くのパターンは、 「息抜きにポップスやジャズっぽい曲もやってみましょう〜」 と、ジャズっぽい曲やポップスの曲のピアノアレンジ楽譜を、クラシック曲を弾く時と同じように、普通に譜読みして暗譜して演奏・・、というところに留まってしまっている気がします。それでは、本当に「息抜き」で終わってしまって、そこから学べるものは殆どなく、もったいない気もします。 ジャズにしろポップスにしろ、せっかく取り入れるのであれば、コードの理論や、即興演奏の方法など、むしろ真正面から真剣に向き合った時に、本当の意味でクラシックの演奏にも生きてくるのではないかと個人的には思うし、事実、国際コンクールで出会った一流ピアニスト達(特にロシア人)は、ジャズもプロ並に弾けるという人たちが沢山いました。もちろんそれらの勉強が「必須」だとまでは思わないけれども、メリットは確かに計り知れないほどあると思います。 クラシック部門は既に日本でも広がり始めている英国王立音楽検定。 是非ジャズ部門の方も、日本に取り入れられて広まって行くといいなぁと思っています。特に、クラシックのバックグランドがあって、これからジャズも始めたいという生徒さんや先生ご自身には、最適なシステムになっていると思います。 さて、気持ちを切り替えて、12月にはラフマニノフを含むクラシック曲&オリジナル曲での本番です♪ 11月末には日本から妹あすかも到着し、12月中に、あすかとジョイントで、出産前最後のコンサートが2回。お腹の赤ちゃんと一緒に頑張ります(^o^)/ ———————————————— <追記> 最後に、これまでクラシックだけやってきたけれども、ジャズの理論も1から勉強したいという方に、特におすすめの教本をいくつかご紹介させて頂きます。どれも、私自身使用してとっても役に立った本です。 ● Exploring Jazz Piano 1 ● Exploring Jazz Piano 2 (Tim Richards著 Schott Music出版) ![]() 上記のTim Richards氏の著書です。 全英音楽産業協会 (MIA) から、Best Pop Publication 2006を受賞しています。解説の分かり易さと詳しさ、独学にもレッスンにも使える課題部分の充実、譜例の充実さ(全ての解説に譜例がついています)どの点をとってもピカ1です。一巻あたり300ページと、かなりのボリューム。作曲の参考にもとても役立ちます。 ● A Classical Approach to Jazz Piano (Exploring Harmony) ● A Classical Approach to Jazz Piano Improvisation (Dominic Alldis著、Hal Leonard出版) ![]() ロイヤルアカデミーのジャズ科の教授の著書です。ロイヤルアカデミーのクラシック科の生徒に向けてのジャズ講義も行っており、この本は、クラシックのバックグラウンドがある人に向けて特別に書かれた珍しい貴重な教本です。譜例も、ショパンやバッハなど、クラシックの曲を例にしたジャズコードの解説など、クラシックをやっている人にはとても入り易い本だと思います。 ● The II-V7-I Progression Volume 3 (Jamey Aebersold Jazz出版) ![]() ジャズピアノを始めた最初の半年位、全調でのツーファイブワン進行の定型の和音とソロの各種定型パターンを永久に繰り返すことから始めたのですが、その際にこの本が本当に役立ちました。ツーファイブの基本的なコード伴奏や即興演奏を、まずは全調で弾けるようになることを目標に、基礎の基礎からクラシックでいうハノン感覚で練習できるのでオススメです。 ● Jazz Theory Workshop 初級編 ● Jazz Theory Workshop 中・上級編 (小山大宣著 武蔵野音楽学院出版) ![]() 日本語で書かれた本で私が読んだ中ではこれが一番素晴らしいと思いました。初級編から上級編まで丁寧にきちんと読めば、一通りの基礎的な理論知識が体系的に頭に入るようになっています。 「倍音列」や「純正律と平均律」など、音楽そのものの基礎的な知識まで詳しく解説してあり、ただ分かり易いだけで根本的なところが理解できない解説書とは全く異なり、素晴らしいです。30年以上も前に書かれた本なので絶版になってしまっていますが、いくつかのサイトでは、まだ購入可能のようです。 Dominic AlldisとTim Richardsの上記の本は、どれも日本のアマゾンでも購入できるようです。→日本のアマゾンでの上記4冊へのリンクはこちら
by sayaka-blmusic
| 2010-11-22 20:26
| ロンドン音楽事情
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