先週金曜日の夜、ジャズピアニストBarry Harris(バリー・ハリス)のライブに行ってきました。 Barry Harris氏は、ディジーガレスピーやリーモーガン、マイルスデイビスなど歴代の巨匠達と実際に共演してきたJazz界の大御所ピアニスト。現存するBebop Jazz Pianoの最高であり唯一無二の存在、モダンジャズ黄金期の生き証人とも言われています。 レコーディングやコンサート活動と平行してジャズピアノの教育活動にも力を入れていて、これまでにも全米各地の大学で教鞭を執ったり、世界中でワークショップを開いたりされてきました。 1979年から定期的に続いている彼のワークショップは、今でもニューヨークで基本的に毎週続いていて、しかも信じられないような良心的な値段で行われています。 また、わずか数ドルという値段で、お金の無いミュージシャン志望の若者達の為に5分〜10分のワンポイントレッスンを行っていたこともあったようで、その頃は、彼のレッスンを求めてニューヨークの街中に長蛇の列ができたこともあったとか。世界中から集まる門下生の中には、その後有名なジャズミュージシャンになった人も多くいます。 私がロンドンでジャズピアノを教えて頂いているShan先生もBarry Harris先生の元門下生の一人。 今回Barry Harris氏が来英してロンドンでライブを開くということも、このShan先生に教えて頂きました。 私が伺った先週末のライブ会場は、ロンドンSohoにあるPizza Express Jazz Club。手が届くかのような間近な距離でこんな大御所のピアニストの演奏が15〜20ポンドで聞けてしまうというのは、恐るべしロンドン! ![]() 1929生まれのBarry Harris氏、なんと御年80歳です。 ステージまで歩いて行くのもゆっくりゆっくりで、杖と周りの人のサポートが必要なほどなのに、ひとたび演奏が始まると、まだバリバリ現役そのもの!! 編成はベース&ドラムとのトリオ。ウィットに富んだトークと、「これぞビバップの真髄!」といえるようなアドリブフレーズに溢れた素晴らしいピアノで、前後半合わせて2時間以上のステージを、たっぷり楽しませて下さいました。 クラシック界の人の中には、ジャズピアニストの弾き方というと、和音をバンバンと叩くように弾くという偏った先入観を持っている人もいるかもしれませんが、それはジャズの中でも一部のジャンルの一部のピアニスト。多くのジャズピアニストは、本当に美しい多彩な音色を奏でるし、Barry Harrisの弾き方はその究極で、それぞれの和音の構成音を丁寧に丁寧に、大切に積み重ねていくような和音の響かせ方。むしろ全てのクラシックピアニストが彼の爪の垢を煎じて飲ませて頂かなくてはいけないんではなかろーかと思わされる位の美しい響きです。 ——————————————— 話は逸れますが、私自身オリジナル曲の作曲を始めてから、多方面の音楽ジャンルから音楽理論や奏法を吸収したくて、現在はロンドンにて、クラシックピアノと、ジャズピアノ、即興演奏(フリーインプロヴィゼーション)それぞれ別々の3人の先生についているのですが、このうちジャズピアノを教えて頂いているのが先述のShan先生です。 で、Shan先生の教えて下さるBarry Harris直伝のジャズ理論というのが、一般的なジャズ理論である従来の基本コード+テンションノートの増減で和音が決まるという考え方とは全く違う画期的な奏法(いやむしろ純粋なBebopではこれが大元なのかも)で、これが意外にもクラシックの曲、特にラフマニノフの曲の演奏や解釈にめちゃくちゃ役立ったのです。 前回のロンドンリサイタルで演奏したラフマニノフのソナタ2番を仕上げるにあたっても、実際の奏法的な面ではもちろんハワードシェリー先生から教えて頂いたところが大きいのですが、曲の和声解釈に関しては、Shan先生から教わったBarry Harris式のジャズ理論&奏法が、驚くほど助けになりました。 クラシックの曲を理解するために、ジャズの理論や奏法を勉強するということは、日本のクラシック教育においては何故かあまり行われていない気がしますが、個人的には凄く重要なことだと思うし、ロマン派以降の曲を分析する時には、むしろ近道になるのでは・・と思います。(ロイヤルアカデミーには、クラシック科の生徒に向けたジャズ理論の授業があり、選択で取ることができます) ——————————————— さて、話はふたたびBarry氏のライブへ。 (いつまでもライブが終わってほしくない)と心から願ってしまうような至福の2時間のライブが終わり、頭の中は美しいピアノの和音の響きの余韻でいっぱい。 そんな中、Shan先生が仲介してくれて、なんどBarry Harris本人に紹介して下さり、色々直接お話させて頂き、またCDにサインまで頂いてしまいました。 ![]() ![]() 中央に書いて下さった文字、見えますでしょうか? 「Fukai Aijou (深い愛情)」。どこで聞いたのか、この日本語フレーズをご存知だったみたいです。彼の生き方も、彼の奏でるピアノの音もまさに「深い愛情」そのもの。感激です。 そういえば、妹あすかが昔師事していたピアニストの国府弘子さんも、Barry Harrisの元弟子だそうです。となると、私もあすかも、ルートは違えど、同じBarry Harrisの孫弟子ということに・・?! 自身が素晴らしいピアニストなだけではなく、そのエッセンスを惜しみなく後世に伝えようと今でも世界中でワークショップなどの教育活動を続けているBarry Harris氏、心から尊敬です。 きっと、世界中に何千人と、彼の元弟子、孫弟子たちがいて、「深い愛情」が伝播していっているのだろうなぁと思います。
by sayaka-blmusic
| 2010-09-02 05:16
| ロンドン音楽事情
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