先日のロンドンでのコンサートの時に、イギリスを中心に活躍されている華道家・日本庭園デザイナーの澤野多加史さんがいらして下さいました。世界で最も権威あるチェルシーフラワーショーでも4年連続ゴールドメダルを取られていて、オックスフォード大学やケンブリッジ大学の日本庭園や、イギリスの古城内の日本庭園なども手がけていらっしゃる方です。 その澤野さんが、コンサート後メールを下さり、なんと、オリジナル曲の「夕桜」がとっても気に入ったので今度オックスフォードで行われる活け花パフォーマンスで、この「夕桜」の曲のイメージで花を活けてみたいと仰って下さったのです! 「夕桜」の曲は、私の中でも特に思い入れのある曲だったので、本当に嬉しかったです。 春の陽を燦々と浴びた桜のような華やかさも、夜桜のような艶やかさもないけれど、刻々と色を変えて行く夕日の中で、人知れず、限りない優しさを秘めながら、はらはらと散って行く薄桃色の夕桜。そんなイメージを元に作った1曲でした。 自分の作曲した曲が、活け花の作品になるなんて、想像するだけで鳥肌が立つほど興奮! そして昨日、その活け花パフォーマンスを拝見しに、行ってきました! オックスフォードは、ロンドンからは車で1時間30分ほど。町中にオックスフォード大学のカレッジが点在する「大学の町」です。今回の会場も、オックスフォード大学のWolfson College内のホールにて。 「春風 SPRING BREEZE -IKEBANA Demonstration with Music-」 という題名で行われた今回のイベントは、Oxford Ikebana Study Groupというイギリス人の活け花愛好団体の主催によるものでした。お客様もほぼ全員がイギリス人。イギリスにおいて、こんなにも活け花に熱心に関心のある方がいらっしゃるというのは驚きでした。 前半は、5曲の異なる曲をかけながら、それぞれの曲のイメージに合わせて、澤野多加史氏が、5つの異なる活け花パフォーマンスを行うというもの。 一度活けた花は、基本的にもう一度差し直したりはせずに、どんどん活けていくので、まさに一発勝負。素晴らしい集中力と、オーラで、一本活けるごとに、作品の表情が変わっていき、作品が生命の輝きを増していく様子が感動で、すっかり魅了されてしまいました。 そして、2曲目は、いよいよ「夕桜」でのパフォーマンス (生演奏ではなく、録音したものです)。会場にメロディが流れ始めると、澤野氏がまず取り出したのは、古い桜の幹と根で出来た花器。 そこに、金槌で枝を打ち付けていきます。わずか3分の曲が、2回繰り返される間に、みるみるうちに作品が出来上がっていきます。それにしても、バックで自分の作った曲の自分の演奏が流れていて、その曲と共に、今まさに目の前で新たな活け花の作品が生まれていっているというのは、なんとも不思議な感動でした。 仕上げに、桜の根の花器に、水が注がれます。 完成した作品。 桜が冬の雪で枝が水のなかに沈んでしまい、春を向かえやっと水から這い上がり、再び枝を水面から出すと言うもので、伝統的な「古典華」での生け方で、「水くぐり」というのだそうです。 はかなく優しい感じと、同時に、新しい生命や未来への光も見える感じが、まさに曲のイメージぴったりで、感激してしまいました。 作品の構想を練るのに、その曲を毎日数十回、合計何百回も聴いて、イマジネーションを膨らませ、構想を練っていくのだそうです。また、納得の行く枝や花を探しに数週間前から山篭り、そして前日も山まで探しに行かれたとのこと。そして本番は、一回きりの一発勝負。まさに「華道」は、妥協を一切許さない「道」なのだなぁと思わされました。 その他、ネイティブアメリカンの吹く笛の音と共に活けたり、なんとBob Dylanの曲と共に活けたり、古典華だけでなく、「自由華」「抽象華」など、様々なスタイルの5つの作品を活けられていました。 中でも、澤野さんが、お知り合いのダウン症のお子さんのために作ったというこの作品は、いつもその子供が遊んでいる実際の車の上に、花が活けるというものでした。流れている曲は、その子が大好きだという童謡。車の上に、可愛いお花と共に、カリフラワーなどの野菜が活けられていたりして、澤野さんの深くて優しいお人柄が全面から溢れでているような作品でした。 そして休憩を挟んで、後半は、ステージ全面を使っての大作。 何もなかった舞台から、細野晴臣の”源氏物語”の音楽と共に、わずか20分位の間に華や枝で彩られた和の空間が出来上がっていきます。これはまだ小さい方で、普段はこの4倍位大きな大作品を作られていて、これまでロイヤルアルバートホールやクイーンエリザベスホール初め、イギリス各地のホールでも、色々なジャンルのミュージシャンやダンサーなどとコラボレーションもされているのだそうです。 終わった後、澤野氏と、「夕桜」の曲と共に生まれた活け花作品と一緒に。 ところで、このパフォーマンスの前には、隣の会場で、Oxford Ikebana Study Groupのイギリス人の皆様が活けた作品も沢山展示されていました。このスタディグループは、長年、澤野さんがご指導されていらっしゃるのだそうです。 ガーデニングの文化があるからか、イギリス人にとっても活け花は身近に感じられるものなのかもしれません。飾られていたイギリス人生徒さん達による作品は、和のテイストをきちんと取り入れつつ、ヨーロッパのセンスだからこそのお洒落な感じも混ざっていて、どれも素敵でした。 Study Groupのイギリス人女性による活け花の紹介プレゼンもありました。彼女によると、西洋のフラワーアレンジメントは、花をなるべく多く使って隙間を埋めていくようなものであるのに対して、活け花は、限られた数の花や枝のみを使って、むしろその間に生まれる空間を大事にするアートであるということ。なるほど、と思いました。音数や楽器数の多さで華やかさに重点をおく傾向の強い西洋の音楽と、シンプルな編成で音数も少なく「間」を大切にする日本の雅楽などの違いに共通するところがあるかもしれないなと思いました。 自分自身の曲を使っていただけた感動ももちろんですが、澤野氏による圧倒の活け花パフォーマンスや、そしてイギリス人の方々が日本文化の一つである活け花を心から愛している様子などを目にして、沢山の意味で感動した一日でした。
by sayaka-blmusic
| 2010-03-22 07:34
| ロンドンでの日常生活
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