先日、ピグミー研究者の服部志帆さんとお会いして、ピグミーの生活や音楽についてお話を伺うという貴重な体験をさせて頂きました。(写真右が服部さん。ピグミーの子供達が写っている画面と一緒に撮ったのですが残念ながら反射しちゃいました…) 服部さんは、京都大学大学院でピグミーの研究をされている地域研究博士で、現在ロンドン大学に客員研究員として1年間イギリスにいらしています。 ピグミーというと「彼らの歌が素晴らしい!」というイメージだけは、私自身、昔から強く持っていました。というのも、UNESCO所有のピグミーの歌の音源をサンプリングしてハウスミュージックと融合させた「Deep Forest」というグループの音楽が、昔から大好きで、音楽の印象だけは強烈にあったのですが、その他に知っていたことといえば、「成人男性でも平均身長が150センチに満たない位のアフリカの森林に住む民族」ということ位で、ピグミー自体がどんな文化を持ちどんな生活をしているかは何一つ知らなかったので興味津々! そのピグミーをご専門に研究されていて、実際ピグミーの村にも住み込んでいらっしゃったという服部さん。実際お会いして直接お話を伺い、しかもピグミーの実際の歌声のCDも聴かせて頂けるということで、一ヶ月近く前からとっても楽しみにしていました。 実際お会いした服部さんは、とても女性らしく柔らかな物腰の方で、とてもピグミーの中で一緒に野生生活していた姿が想像できないほど。でも言葉の節々に芯の強さを感じさせるとても素敵な女性で、ああ、こんな風な日本人女性が、世界に出て行って現地で素晴らしい研究していらっしゃるって、すごく素敵だな、素晴らしいなぁ…と思いました。 彼女が住み込み調査をしていたのは、カメルーンの森林に住むピグミーの一つ、「バカ族」。まるで冗談みたいな名前ですが、「バカ」とは現地では「人間」という意味なのだそうです。 彼女が現地で撮影した写真の数々をPCで見せて頂きながら、ピグミーの家、食べ物、生活道具、生活の様子などなど、本当に興味深いお話を沢山聴かせて頂きました。 今でも狩猟採集による生活をしているピグミーは、移動生活を基本とし、一つの場所で一通り狩りを終えると、次の場所に皆でお引っ越し、というキャンプ生活。 棒と葉っぱで出来た家は非常にシンプルで、家財道具は、寝床と、簡単な調理道具などのみ。家は寝るためのみにあるようなもので、食事も皆で外で食べるし、1日のほとんどは外で過ごすそうです。ほとんど物や財産らしきものを持たずに生活しているものの、基本的に飢えへの恐怖はなく、森がある限り自分たちは大丈夫、森が守ってくれる、自分たちを生かしてくれる、という絶対的な森への信頼があるのだそうです。 モノばかり増えて行って、なのに不安ばかりが募る私たち…。 あまりにも対照的で、PC画面の写真にうつる彼らの澄んだ目を見ながら、色々なことを考えてしまいました。 ところで、ピグミーは、洋服や道具などは、基本的に皆で共有。なので、前の日にあるおじさんが着ていたTシャツを、次の日には違うおじさんが着てたり…、なんてことは日常茶飯事なので、洋服をたよりに人が覚えられないので、ただでさえ皆似ている顔なので、最初名前を覚えるのが大変だったそうです。 と、ここまでお話を聞いて、ふと疑問が。 「服部さん、一体ピグミーと何語でコミュニケーションされてたんですか?」 すると、驚きの答えが! 服部さん、現地のバカ族が話す「バカ語」を、日本にいる間に勉強して習得し、後は現地で毎日かたっぱしから「これは何ていうんですか?」と聞きながら、体当たりで覚えていったんだそうです。凄すぎる…。 更に、服部さんが初めてピグミーの村を訪れた日には、付き添いなどは無く、たった一人で彼らと初対面。彼らに「研究のために」と説明しても、当然彼らは「研究」とは何のことやらさっぱり分からないので、とにかく、 「あなたたちのことを、知りたいのです!」 ということを必死に伝えたのだそうです。 服部さんの思いは彼らに通じ、初めて出会ったその日から、彼らは彼女をグループの一員として温かく迎え入れ、その日からすぐに、一緒に生活を始めたのだそうです。 バカ族の懐の広さ、深さもスゴイけど、その中にたった一人で飛び込んでいって、合計で2年半もの間、彼らの中に溶け込んで共に生活をし、しかも生活しただけじゃなくて、素晴らしい研究結果まで出されている服部さん、心から尊敬です…。 私自身ロンドンに住み始めたばかりの頃、女の子一人で異国の地で大変でしょうと色々な方に心配して頂いたり、私自身、文化の違いが大変、言葉の違いが大変とか思っていたけれども、服部さんのそれと比べたら、なんて甘っちょろかったんだろうと思います。 ---------------- さて、色々な興味深い話を聞かせて頂きながら、楽しみにしていたピグミーが実際に歌っているCDも聴かせて頂きました! ピグミーが実際に歌う音楽。 始まった瞬間からノックアウトです…。 これが人間が歌っているとは、やっぱりどうしても信じられない。 基本的に完全即興らしいのですが、人間の声とは到底思えないような、まるで鳥のような歌声。そしてピグミーのスゴイのは、これに次々と他の人がハモリで加わり、即興でポリフォニー(多声音楽)の合唱をしてしまうこと! 服部さんによると、ピグミーの住む森では、このような歌が、毎日当たり前のように森中あちこちから聞こえてくるそうです。1、2歳という、物心が付く前から、自然と歌い、踊り始めるのだとか。なので、5歳前後の子供達同士でも、集まると自然とポリフォニーの即興を始めるのだそうです。 実際に5歳位のピグミーの子供達の即興での歌の録音を聞かせてもらったのですが、どんなスパルタ音楽教育を施したって、5歳でこんな風には普通ずえっったいに無理って位の天才的な歌とリズム感…。 なんでも、何千年も前の古代から、ピグミーは歌と踊りの天才として、知られていたのだそうです。 ちなみに、ピグミーの村では「リーダー」を決めず、上下関係も無い、完全な平等社会で、むしろ「出る釘は打たれる」という暗黙の了解があって、皆周りを見ながら合わせるというメンタリティが自然とあるのだそうです。 「調和」=「ハーモニー」 クラシックのアンサンブル等でも誰か一人が自分だけ目立とうとした途端にハーモニーが崩れることは多々あります。 彼らが即興による天才的なハーモニーを奏でているのは、もしかしたらこの完全なる平等社会から来るところもあるのかもしれません。 ------------ 先進国では、いつの間にか音楽が単なる自己顕示の為の手段になってしまっていることが往々にしてある気がします。最近、色々な民族音楽に接していて、そもそも音楽って何なんだろう、何のために人類に与えられたんだろうということを、ふと思わされました。 ピグミーのそれは、まるで生きて息をすることがそのまま歌になっているような、そんな音楽。 人間の根本的エネルギーを呼び覚ますような、彼らの素晴らしい歌声や音楽を、とても真似することはできないけれども、その音楽にこんなにも魂を揺さぶられるということは、私たちの体のどこかにも、もしかしたら彼らと同じものが眠っているからなのかな…と思います。 ピグミーの歌は以下のホームページで聞くことができます。 http://www.baka.co.uk/baka/ トップページの他、「Songs」のタブをクリックすると、更に歌や踊りの映像などを見ることができます。 更に、このバカ族の歌にインスピレーションを受けて、彼らの音楽を取り入れながら音楽を作り続けているイギリス人とアフリカ人の混合グループ「Baka Beyond」というアーティストのCDは、日本やイギリスのアマゾンでも買えるようです。 先進国による森林破壊などが進む今、 彼らの音楽やいのちの源である森が守られ、彼らがこれからも平和に過ごしていくことができることを、心から祈るばかりです。
by sayaka-blmusic
| 2009-12-12 09:08
| ロンドンでの日常生活
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