ロンドン西部のアクトンにある「Asian Music Centre」で開催されたアフガン音楽のリハーサルを聴きに行ってきました。今まで一度も耳にしたことのないアフガニスタンの音楽を聴けるということで始まる前からとっても楽しみ! コンサートではなくリハーサル、ということで入場はなんと無料。じゅうたん敷きの部屋に、演奏者が輪のように座り、観客である私達がそのまわりを囲んでじゅうたんにペタンと座って聴くという、なんとも幻想的な雰囲気の中での演奏。 音楽が始まると、今まで聴いたことのない独特の響きとリズムに、一瞬で魂をもっていかれてしまいました。 こちらはアフガニスタンの音楽で主役級の大事な役割を果たすギターのような楽器、RUBAB(日本語ではルバーブともラバブとも呼ばれるみたいです)。どこか物悲しく優しい響きのする、本当に美しい音色の楽器です。 タブラというドラム。ぼわんという、まるで水の中で鳴っている音のような、なんともいえない素敵な味のある音がします。インドの音楽にもよく使われる楽器だそうです。 終わった後にアップで撮らせて頂いたタブラの写真。下についているワインのコルクのような部分を上下に調節して、音の高さや音質を調節するのだそうです。 ハルモニュームという鍵盤楽器。鍵盤の反対側(写真でいうと右側部分)が、まるで開きかけの引き出しのようにぽこぽこ開きます。ここを手で動かして空気を送り込み、音を出すのだそうです。原始的な手動オルガンといった感じかも。こちらもインド音楽でも使われます。 歌のついている曲もいくつかあり、それぞれの曲の前に歌詞を解説して下さったのですが、内容は、宗教上の歌、恋の歌、戦争に行く子供を案ずる母の歌、などなどなど。どこの国でも、神様への賛美と、恋愛と、親子の絆は、永遠のテーマなのだなぁ・・と実感。 歌の歌詞や、楽器の珍しさと共に、もう一つ最も興味深かったのが、曲で使われている旋法(モード・スケール)の多様さ。それぞれの民族音楽には、例えば沖縄音階(ドミファソシド)やスパニッシュモードのように、固有の旋法があることが多いのです。アフガニスタンの音楽も基本的にコードでなくモード(旋法)がベースで作られているのですが、そのモードが一種類でなく、曲によって実に様々。ある曲はメジャーペンタトニックスケール(ドレミソラド)のみ、ある曲はフリジアンモード(ド♭レ♭ミファソ♭ラ♭シド)のみを忠実に使って作られているかと思えば、ある曲は、上行形が沖縄音階(ドミファソシド)に似た音階、下行形はミクソリディアン(ド♭シラソファミレド)に似た音階と、不思議なミックスによる独特の音階が使われていたり、ある曲はいかにもイスラム的な音階だったり・・、と本当に様々。 あまりにも興味深かったので、終わった後、ルバーブを弾いていた奏者の方に、アフガン音楽における旋法について質問しに行ったら、重要なポイントをいくつか教えて下さった後名刺を下さって、ここにメールをくれれば、更に詳しい資料を送ってあげるよーと言って下さいました。名刺をふと見たら、ロンドン大学ゴールドスミス校の民族音楽学の教授! まさにアフガン音楽における旋法の研究をされている方でした。(その後メールでやりとりして、本当に資料を送って頂けることに!今楽しみに待っているところです) アフガニスタンは、シルクロードの十字路ともいわれ、海上輸送がメインの貿易手段となる前は、東西交易の重要な場所として様々な地域の人々が流入し、そのため、地域によってペルシャ音楽、インド音楽など異なる地域から影響を受けている音楽が発達していったそうです。アフガン音楽における旋法の多様さや独特さは、もしかしてこういうようなところから来ているのかなぁ・・とも思います。 今でこそ、クラシックとジャズ、ロックと民族音楽などなど様々なジャンルのフュージョンやクロスオーバーが一般的になってきていますが、もしかしたらアフガニスタン音楽は、世界最古の「フュージョン音楽」だったのかもしれません。 コンサートの最後に、来賓でいらしていたアフガニスタン大使からの挨拶とメッセージ。アフガニスタンというとやはり今はマシンガンや戦争のイメージだけれども、元々は音楽を愛する人々の国。早く、人々が心から自分達の音楽を奏でたり聴いたりすることを楽しめるような、そのような日々が戻ることを祈ってやまないと言っていました。 (今でこそ、アフガニスタンで若者によるポップスも少しずつ盛んになってきているようですが、タリバン政権真っ最中の頃は、音楽を弾くことだけでなく聴くことも禁止されていたそうです) 世界には、まだまだ私の知らない様々な音楽があるんだ・・ということを改めて思い知らされた一夜でした。 日本やヨーロッパの殆どの「音楽大学」では、ピアノを専攻した場合、基本的には西洋音楽、しかも限られた時代のクラシック音楽だけを勉強して、自国の日本音楽すらまともに勉強しないまま、音楽の全体像を知った気になって卒業してしまう(私もその一人)のは、実はすごくもったないないことなんじゃないかな・・・と思います。
by sayaka-blmusic
| 2009-11-20 01:12
| ロンドン音楽事情
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