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ジャズピアノ英国王立音楽検定体験記 本番編&感想

「準備編」のつづきです。

ということで、ABRSM Grade Test(英国王立音楽検定)のジャズ部門を受けてみることにした私。先週木曜日がその本番でした。

この検定は、クラシック部門、ジャズ部門とも、年に3回、同じ時期にイギリス全土で行われているのですが、私の地元会場は、この小さな教会。

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とってもとても分かりにくい案内表示・・。足下の水道管の横って、宝探しじゃないんだから・・(^-^;) このいい加減さがなんともイギリスらしいです(笑)



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そしてこちらが試験会場の入り口、教会の裏口です。

他の会場も、例えば小学校の一室や、コミュニティセンター(公民館)などなどで、様々な場所で地元密着型(?)で行われるのもこの試験の特徴です。

コンサートやコンクールはともかくとして、いわゆる「ピアノの検定」って、一体何年ぶりだろう・・。ある意味コンサートより緊張します^^;

今までこの英国王立音楽検定のクラシック部門の方は、自分の生徒さんに何十人にも受けさせてきたけど、スケールから初見演奏、実技試験まで、万遍なく用意して臨まなくてはいけない大変さとか、この狭——い寒——いチャーチの控え室で緊張して待たなくてはいけない緊張とか、生徒さん達の気持ちが初めてすごーーーく分かった気がしました。やっぱり何事も、自分でも体験してみるって、とっても大事だなぁと実感。

ちなみに、クラシック部門の方は小中学生の受験者が多いですが、ジャズ部門の方は、さすがに小学校時代からジャズに興味を持つ渋い子供は少数派なのか、私の見た限りでは、大人の受験者が多かったです。(もちろん小学生でも受験は可能)



そして、この日の試験官が、なんと!!!!

Tim Richards氏。

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Schott Musicが出版している、ジャズの教本シリーズ「Exploring Jazz Piano 1&2」や、「Exploring Blues Piano」の著者として、ロンドンのジャズ教育界では超有名なジャズピアニストです。上の本の表紙の写真がTim氏本人です。

私自身、 Exploring Jazz Piano の本は1年位前に買って以来愛読していたので、びっくり!! ちなみに、この本は全英音楽産業協会 (MIA) から、Best Pop Publication 2006を受賞しています。

何より、Tim Richards氏は、この英国王立音楽検定のジャズ部門自体の創設や改訂自体に関わっているお一人。

他から聞いたところ、英国王立音楽検定の中でも、ジャズ部門の方はまだ歴史が浅くて受験者も少なく、また審査できる先生の数も少ないことから、このような大御所が直接審査にあたるんだそうです。なんて贅沢!

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試験会場に入り、(おおおお、本当にTim Richardsだぁ〜)と興奮しながらいよいよ試験開始。

試験内容は「準備編」にも書いた通り、以下の4つ。

1. スケール&アルペジョ (長短音階、ドリアン、リディアンなどのモード音階などから当日指定。)

2. 課題曲3曲演奏 (ブルース、スタンダード、コンテンポラリージャズから1曲ずつ。テーマ→即興→テーマ変奏の流れ)

3. Quick Study (その場で楽譜を渡され、初見演奏に続いて即興演奏)

4. Aural Test(口頭試験と、連弾即興セッション試験)

まずはスケールと、課題曲3曲演奏。「All Blues」と「Blue Bossa」と「Waltz for Autumn」。心配していた即興の部分もなんとか無事崩壊はせずに終えました。Quick Study(初見&即興演奏)の方は、ラッキーにもシンプルなBluesで、5拍子のコンテンポラリーとかだったら、即興演奏どーしよーかと思っていたので一安心。

そして最後に、Aural Test。口頭セクションを終えた後は、いよいよ試験官と二人で、連弾即興セッション試験!!! いくら試験の場とはいえ、Tim Richardsと二人で連弾セッションです!!贅沢すぎーーーー!! 

と興奮している間に、あっという間に終わってしまいました。うーーーーん、あと10分位続けていたかった〜。



そして、退室間際に(こういうこと試験の場で試験官に言っていいんだろうか)と迷いつつ、思い切ってTim氏に、

「あの、私あなたの本のファンです! 自習するのに使っていたのですが、素晴らしい内容でした!」と伝えると、

にっこりと笑って、「ちょうど先月末に新しいシリーズ「Exploring Latin Piano」を出版したところで、来週出版記念パーティ&コンサートを開くから良かったらおいで」と、招待券まで下さいました。感激・・(ToT)  思い切って話しかけて良かったー!



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ということで、無事終わったジャズピアノ英国王立音楽検定。

生徒さんに今後ジャズ部門も受けてもらう前に、まずは自分自身が一度体験してみなきゃ、というのが動機でしたが、実際体験してみると、思った以上に私自身沢山学ぶことがあった試験でした。

なかなか客観的な視点では計りにくいジャズを、ここまできちんと体系化してある試験内容は、本当に素晴らしいなぁと思います。Grade5までしかないのが本当に残念。最高グレードのGrade5まで取っても、やはりジャズの導入部分でしかないので、クラシック部門のようにGrade6〜8まで新設されれば、もっと面白く可能性も広がるのではないかと思います。

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私が即興演奏を習っているTOM先生は、クラシックもジャズも即興演奏も幅広く教えている先生なのですが、先生いわく、生徒さん達がクラシックとジャズを平行して学ぶメリットは本当に大きいとのことです。

私自身、作曲を初めて以来、Bebop、モードジャズ、映画音楽、即興演奏など幅広く勉強するようになってから、クラシックの楽譜に対する見方も変わってきて、今まで「楽譜の丸暗記」でしかなかった曲の見方が、コード進行とそれに付随するメロディがどう絡まって行くかという見方に完全に変わり、和声感や耳の使い方がガラっと変わっただけでなく、クラシック曲の暗譜も飛躍的にラクになりました。あと、前にも書いたことがありますが、ラフマニノフ等の曲の分析は、クラシックの和声分析よりも、ジャズのコード理論に基づいた和声分析の方が、何倍も効率が良いこともあります。


日本でも、ジャズやポップスをレッスンに取り入れているクラシックピアノの先生方も増えてきているものの、その多くのパターンは、

「息抜きにポップスやジャズっぽい曲もやってみましょう〜」

と、ジャズっぽい曲やポップスの曲のピアノアレンジ楽譜を、クラシック曲を弾く時と同じように、普通に譜読みして暗譜して演奏・・、というところに留まってしまっている気がします。それでは、本当に「息抜き」で終わってしまって、そこから学べるものは殆どなく、もったいない気もします。

ジャズにしろポップスにしろ、せっかく取り入れるのであれば、コードの理論や、即興演奏の方法など、むしろ真正面から真剣に向き合った時に、本当の意味でクラシックの演奏にも生きてくるのではないかと個人的には思うし、事実、国際コンクールで出会った一流ピアニスト達(特にロシア人)は、ジャズもプロ並に弾けるという人たちが沢山いました。もちろんそれらの勉強が「必須」だとまでは思わないけれども、メリットは確かに計り知れないほどあると思います。


クラシック部門は既に日本でも広がり始めている英国王立音楽検定。

是非ジャズ部門の方も、日本に取り入れられて広まって行くといいなぁと思っています。特に、クラシックのバックグランドがあって、これからジャズも始めたいという生徒さんや先生ご自身には、最適なシステムになっていると思います。





さて、気持ちを切り替えて、12月にはラフマニノフを含むクラシック曲&オリジナル曲での本番です♪

11月末には日本から妹あすかも到着し、12月中に、あすかとジョイントで、出産前最後のコンサートが2回。お腹の赤ちゃんと一緒に頑張ります(^o^)/





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<追記>

最後に、これまでクラシックだけやってきたけれども、ジャズの理論も1から勉強したいという方に、特におすすめの教本をいくつかご紹介させて頂きます。どれも、私自身使用してとっても役に立った本です。

● Exploring Jazz Piano 1
● Exploring Jazz Piano 2
 (Tim Richards著 Schott Music出版)
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上記のTim Richards氏の著書です。 全英音楽産業協会 (MIA) から、Best Pop Publication 2006を受賞しています。解説の分かり易さと詳しさ、独学にもレッスンにも使える課題部分の充実、譜例の充実さ(全ての解説に譜例がついています)どの点をとってもピカ1です。一巻あたり300ページと、かなりのボリューム。作曲の参考にもとても役立ちます。




● A Classical Approach to Jazz Piano (Exploring Harmony)
 A Classical Approach to Jazz Piano Improvisation

(Dominic Alldis著、Hal Leonard出版)
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ロイヤルアカデミーのジャズ科の教授の著書です。ロイヤルアカデミーのクラシック科の生徒に向けてのジャズ講義も行っており、この本は、クラシックのバックグラウンドがある人に向けて特別に書かれた珍しい貴重な教本です。譜例も、ショパンやバッハなど、クラシックの曲を例にしたジャズコードの解説など、クラシックをやっている人にはとても入り易い本だと思います。





● The II-V7-I Progression Volume 3 (Jamey Aebersold Jazz出版)
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ジャズピアノを始めた最初の半年位、全調でのツーファイブワン進行の定型の和音とソロの各種定型パターンを永久に繰り返すことから始めたのですが、その際にこの本が本当に役立ちました。ツーファイブの基本的なコード伴奏や即興演奏を、まずは全調で弾けるようになることを目標に、基礎の基礎からクラシックでいうハノン感覚で練習できるのでオススメです。




● Jazz Theory Workshop 初級編
● Jazz Theory Workshop 中・上級編
   (小山大宣著 武蔵野音楽学院出版)
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日本語で書かれた本で私が読んだ中ではこれが一番素晴らしいと思いました。初級編から上級編まで丁寧にきちんと読めば、一通りの基礎的な理論知識が体系的に頭に入るようになっています。 「倍音列」や「純正律と平均律」など、音楽そのものの基礎的な知識まで詳しく解説してあり、ただ分かり易いだけで根本的なところが理解できない解説書とは全く異なり、素晴らしいです。30年以上も前に書かれた本なので絶版になってしまっていますが、いくつかのサイトでは、まだ購入可能のようです。


Dominic AlldisとTim Richardsの上記の本は、どれも日本のアマゾンでも購入できるようです。→日本のアマゾンでの上記4冊へのリンクはこちら
by sayaka-blmusic | 2010-11-22 20:26 | ロンドン音楽事情 | Comments(2)

ジャズピアノ英国王立音楽検定体験記 準備編


イギリスでは、ピアノやバイオリンなどの楽器を習っている子供達の多くが毎シーズン挑戦している英国王立音楽検定「ABRSM Grade Test」。 

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この試験は、 エリザベス女王を総裁に持つABRSM(Associated Board of the Royal Schools of Music)という、Royal Academy of Music、Royal College of Musicなど、イギリスの主な4つの音楽院が共同で運営している団体で、100年以上の歴史を持つ世界最大の音楽検定。UK全土はもちろん、世界90ヶ 国以上で、毎年62万人以上が受験しているというマンモス検定です。日本のヤマハ音楽教室のグレードテストも、元々はこの検定を参考にして作られたのだとか。

ちなみに英国王立音楽検定自体は、既に日本でも広がり始めていて、Rolandなどの窓口を通して日本でも受験できるようになっています。

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上の写真は、クラシック部門のグレード教材の一例。イギリスでは、このグレード試験対策のテキストが様々な出版社から出版されています。

Grade1〜8まであり、Grade1だったら、ピアノを初めてすぐの小さい子供でも受けられるので、レッスンの上達目標や励みに丁度良いです。

今までの私の生徒さんの例で言うと、小学生の生徒さんで、ピアノを始めて2年位でブルグミュラーが弾ける位で、だいたいグレード3の受験が可能。「エリーゼのために」などがスラスラ弾けるレベルで、グレード4〜5の受験が可能、古典派のソナタやロマン派の小曲が弾けるようになると、グレード6〜8が受験できる、といった感じです。早ければ中学校1年生位でグレード8を取っている子もちらほら。

とはいっても、ただ曲だけ弾ければいいという訳ではなく、他にもスケールやアルペジョ、Sight Reading(初見演奏)、Aural Test(ソルフェージュを含む口頭試験)などもあり、万遍なく用意しなくてはいけないので結構大変。 私のロンドンでの生徒さん達も、今まで何十人と受験してきていているのですが、皆グレード試験を通してかなり力が付きます。




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さて、あまり知られていませんが、この英国王立音楽検定は、ジャズ部門もあるのです!ジャズの公式な検定試験は、世界でも稀なんだそうです。エリザベス女王を総裁に持つジャズ試験って、なんだか新鮮な組み合わせ・・(^ー^;)

私自身、作曲の参考にということで、クラシックと平行してジャズピアノの勉強をロンドンで初めて以来、BeBopジャズはShan先生、モード奏法と即興演奏はTom先生と、それぞれ別の先生に習っているのですが、そのうちTom先生とレッスン後に話していた時に、

「ABRSMのグレードテストのジャズピアノ部門、内容がかなり充実していて良いから、君の生徒さんでジャズピアノにも興味がありそうな子には、是非受けさせたらいいと思うよ〜」

と教えてくれました。とはいっても、試験内容は当然クラシック部門とはかなり異なる部分も多い模様。ならば自分の生徒さんに受けさせる前に、まずは私自身が体験してみよう!と思い、受けてみることにしました。

クラシック部門が、Grade1〜Grade8まであるのに対して、ジャズ部門は最高グレードでもGrade5までのみ。取りあえず、Grade5の受験を申し込んでみました。

基本的には子供達の受ける試験だし、2、3日前からちょこっと用意すればいいかな〜と、完全にナメてかかっていたら、甘かった!!!

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Amazonで注文した課題曲集や教材が一通り届いて早速見てみると、これが結構準備も大変!

ジャズピアノ試験は、以下の4つのセクションから成っています。


1.演奏実技

クラシック部門では「バロック/古典」「ロマン派」「現代曲」の3つの時代から選ぶのですが、ジャズピアノ部門では「ブルースジャズ」「スタンダードジャズ」「コンテンポラリージャズ」の3つのスタイルからそれぞれ一曲ずつ演奏。課題曲集にある候補の中から自分で選べます。

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演奏の際は、普通のジャズのセッションの時のように、1回目は楽譜通りテーマを演奏。その後、テーマのコード進行に沿って2、3コーラス分、即興演奏。そして最後に、テーマを少しアレンジして演奏し終了。という流れです。

私が選んだのは、Miles Davisの「All Blues」と、「Blue Bossa」、「Waltz for Autumn」の3曲。

即興部分に関しては、Tom先生曰く、事前に作って弾く音符まで完全に決めてしまっていると、演奏の即興性の勢いが無くなるし、試験官にも分かってしまうので、原案だけ決めておいて、後は当日のフィーリングで即興にした方が絶対良いとのこと。ちなみに、最後にテーマに戻ってくるところは、テーマに戻るといっても、全く楽譜通りに弾いたらむしろ減点だとのこと。

楽譜通りに弾くと減点、というのは、クラシックをやってきた身からするととても新鮮。クラシックのように楽譜通り譜読みしてその通り暗譜して何回も練習する方が、私の場合慣れているせいかずっと気楽です・・(^ー^;)



2. スケール&アルペジョ

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クラシック部門では長音階と短音階と半音階だけなのですが、ジャズ部門ではこれに加えて、ドリアンスケール、ミクソリディアンスケール、リディアンスケール、ペンタトニック、ブルーススケールなどなども、基本的に全調で弾けるように用意しなければいけません。ドリアンやリディアンはまだしも、♯やbの多いマニアックな調のブルーススケールとかなんて、普段滅多に弾く機会ないので、久しぶりに真面目に「音階練習」しました・・・。



3. Quick Study

クラシック部門では「初見演奏」に当たる部分です。要するに、初めてその場で渡された楽譜を30秒位でざっと読んで、その場ですぐ演奏する試験。

ジャズ部門の場合は、「初見演奏&即興演奏」という感じで、最初の一段は楽譜通りに演奏、2段目からは、同じコードに沿って即興演奏が求められます。スタイルは、Bluesか、Latin Jazz、普通のSwing Jazz、Jazz Rockのどれかがその場で指定されます。これは当日まで用意しようがないので、過去問題集を見ながら練習。

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一つ一つの曲は、シンプルで簡単なものなのですが、その分、曲やスタイルによってはやたら即興しにくいものもあって意外に難しいです。



4. Aural Test


これも、クラシック部門にもあるテストです。口頭形式で、試験官の弾く演奏を聞いて、曲のスタイルを答えたり、音程を答えたり。

クラシック部門と一番違ってユニークな点は、試験官との「即興連弾セッション試験」があること! 試験官とピアノの前に連弾形式で並んで座り、まずは試験官が数小節演奏をスタート、その後試験管がベースのリズムを刻み続ける中、4小節ごとに、受験者と試験管が交代交代で、右手部分のソロを即興演奏します。当然楽譜は見れず、試験官が何調のどんなスタイルの曲を弾き始めるかも分からないため、耳と反射神経が頼りの試験。



ということで、ある意味では、クラシック部門以上に大充実の内容のジャズ部門。先週木曜日がいよいよ試験本番で、受験してきました。本番編は次回の日記にて・・。
by sayaka-blmusic | 2010-11-21 23:23 | ロンドン音楽事情 | Comments(4)

巨匠ジャズピアニストBarry Harrisの「Fukai Aijou」


先週金曜日の夜、ジャズピアニストBarry Harris(バリー・ハリス)のライブに行ってきました。

Barry Harris氏は、ディジーガレスピーやリーモーガン、マイルスデイビスなど歴代の巨匠達と実際に共演してきたJazz界の大御所ピアニスト。現存するBebop Jazz Pianoの最高であり唯一無二の存在、モダンジャズ黄金期の生き証人とも言われています。

レコーディングやコンサート活動と平行してジャズピアノの教育活動にも力を入れていて、これまでにも全米各地の大学で教鞭を執ったり、世界中でワークショップを開いたりされてきました。

1979年から定期的に続いている彼のワークショップは、今でもニューヨークで基本的に毎週続いていて、しかも信じられないような良心的な値段で行われています。

また、わずか数ドルという値段で、お金の無いミュージシャン志望の若者達の為に5分〜10分のワンポイントレッスンを行っていたこともあったようで、その頃は、彼のレッスンを求めてニューヨークの街中に長蛇の列ができたこともあったとか。世界中から集まる門下生の中には、その後有名なジャズミュージシャンになった人も多くいます。

私がロンドンでジャズピアノを教えて頂いているShan先生もBarry Harris先生の元門下生の一人。

今回Barry Harris氏が来英してロンドンでライブを開くということも、このShan先生に教えて頂きました。

私が伺った先週末のライブ会場は、ロンドンSohoにあるPizza Express Jazz Club。手が届くかのような間近な距離でこんな大御所のピアニストの演奏が15〜20ポンドで聞けてしまうというのは、恐るべしロンドン!


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1929生まれのBarry Harris氏、なんと御年80歳です。

ステージまで歩いて行くのもゆっくりゆっくりで、杖と周りの人のサポートが必要なほどなのに、ひとたび演奏が始まると、まだバリバリ現役そのもの!!

編成はベース&ドラムとのトリオ。ウィットに富んだトークと、「これぞビバップの真髄!」といえるようなアドリブフレーズに溢れた素晴らしいピアノで、前後半合わせて2時間以上のステージを、たっぷり楽しませて下さいました。

クラシック界の人の中には、ジャズピアニストの弾き方というと、和音をバンバンと叩くように弾くという偏った先入観を持っている人もいるかもしれませんが、それはジャズの中でも一部のジャンルの一部のピアニスト。多くのジャズピアニストは、本当に美しい多彩な音色を奏でるし、Barry Harrisの弾き方はその究極で、それぞれの和音の構成音を丁寧に丁寧に、大切に積み重ねていくような和音の響かせ方。むしろ全てのクラシックピアニストが彼の爪の垢を煎じて飲ませて頂かなくてはいけないんではなかろーかと思わされる位の美しい響きです。

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話は逸れますが、私自身オリジナル曲の作曲を始めてから、多方面の音楽ジャンルから音楽理論や奏法を吸収したくて、現在はロンドンにて、クラシックピアノと、ジャズピアノ、即興演奏(フリーインプロヴィゼーション)それぞれ別々の3人の先生についているのですが、このうちジャズピアノを教えて頂いているのが先述のShan先生です。

で、Shan先生の教えて下さるBarry Harris直伝のジャズ理論というのが、一般的なジャズ理論である従来の基本コード+テンションノートの増減で和音が決まるという考え方とは全く違う画期的な奏法(いやむしろ純粋なBebopではこれが大元なのかも)で、これが意外にもクラシックの曲、特にラフマニノフの曲の演奏や解釈にめちゃくちゃ役立ったのです。

前回のロンドンリサイタルで演奏したラフマニノフのソナタ2番を仕上げるにあたっても、実際の奏法的な面ではもちろんハワードシェリー先生から教えて頂いたところが大きいのですが、曲の和声解釈に関しては、Shan先生から教わったBarry Harris式のジャズ理論&奏法が、驚くほど助けになりました。

クラシックの曲を理解するために、ジャズの理論や奏法を勉強するということは、日本のクラシック教育においては何故かあまり行われていない気がしますが、個人的には凄く重要なことだと思うし、ロマン派以降の曲を分析する時には、むしろ近道になるのでは・・と思います。(ロイヤルアカデミーには、クラシック科の生徒に向けたジャズ理論の授業があり、選択で取ることができます)


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さて、話はふたたびBarry氏のライブへ。

(いつまでもライブが終わってほしくない)と心から願ってしまうような至福の2時間のライブが終わり、頭の中は美しいピアノの和音の響きの余韻でいっぱい。

そんな中、Shan先生が仲介してくれて、なんどBarry Harris本人に紹介して下さり、色々直接お話させて頂き、またCDにサインまで頂いてしまいました。

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中央に書いて下さった文字、見えますでしょうか? 「Fukai Aijou (深い愛情)」。どこで聞いたのか、この日本語フレーズをご存知だったみたいです。彼の生き方も、彼の奏でるピアノの音もまさに「深い愛情」そのもの。感激です。

そういえば、妹あすかが昔師事していたピアニストの国府弘子さんも、Barry Harrisの元弟子だそうです。となると、私もあすかも、ルートは違えど、同じBarry Harrisの孫弟子ということに・・?! 

自身が素晴らしいピアニストなだけではなく、そのエッセンスを惜しみなく後世に伝えようと今でも世界中でワークショップなどの教育活動を続けているBarry Harris氏、心から尊敬です。

きっと、世界中に何千人と、彼の元弟子、孫弟子たちがいて、「深い愛情」が伝播していっているのだろうなぁと思います。
by sayaka-blmusic | 2010-09-02 05:16 | ロンドン音楽事情 | Comments(4)

猛烈におすすめのロシア人指揮者、ウラディミール・ユロフスキー

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もう1週間前のことになってしまいましたが、
今年二回目の PROMS(イギリスの夏の大音楽祭)に行ってきたレポートです。

前回行ったプロムスは、ゲルギエフ指揮World Peace Orchestraによるマーラーの交響曲4、5番(その時の日記はこちら)。

そして今回は、私と夫が二人とも大——好きなロシア人指揮者、Vladimir Jurowski (ウラディミール・ユロフスキー)指揮London Philharmonic Orchestra(LPO)による全曲ロシアンプログラム!

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私たちがユロフスキーのの指揮を初めて見たのは3年前。彼が、ロンドンフィルの首席指揮者に、史上最年少(当時35歳位)で就任した、その就任記念お披露目コンサートでのこと。

そのコンサートでのプログラム前半は、あの有名な大ピアニストポリーニとのベートーベンのコンチェルトでした。この時は、指揮目当てで行った訳ではないので、ユロフスキーに関しては全くのノーチェックだった上に、コンチェルトでは普通指揮者の上手さが特別に分かることは少ないのですが、この時は明らかに、(むむむっ、この指揮者はすごいかも・・)と予感が。

そして後半は、いよいよ指揮者とオケが主役になる、ラフマニノフの交響的舞曲。

そこで、度肝を抜かれました!

一挙一動、一振りごとにで、強烈にイメージが伝わって来るその指揮に釘付けになり、何?何なのあの指揮者は??? と、楽章の合間で大興奮で夫と顔を見合わせ、終わった後も興奮が冷めやらず。

彼のセンセーショナルなロンドンデビューの現場に立ち会うことができたこと、本当に幸せに思います。

それ以来、ユロフスキーが指揮をするロンドンフィルの定期コンサートをチェックして、何度か足を運んでいました。

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話は戻って、あれから3年たった今回のPROMS。

PROMSが行われるロイヤルアルバートホールは、巨大な円形劇場になっていて、座る場所によって、見え方も音響も全く違います。

今回は、兎にも角にも、指揮が良くみえるようにということで、オーケストラの真後ろの席となるコーラス席を予約。

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コーラス席から見た舞台(演奏前)。この席だと指揮者が真っ正面からしっかり見えます(@_@)

意外に音響も良いし、席の値段も安めのことが多いので、ロイヤルアルバートホールにコンサートに行かれる機会がある時は、コーラス席かなりおすすめです。

そして、この日のプログラムはこちら。

ムソルグスキー arr. Rimsky-Korsakov  A Night on the Bare Mountain(禿げ山の一夜)
ショスタコーヴィチ  Violin Concerto No. 1 in A minor
スクリャービン  Rêverie (夢)
プロコフィエフ 交響曲 No. 3 in C Minor

全てコテコテのロシアもので固めたプログラム! 
ラフマニノフが無いだけのが残念ですが、それでもロシア音楽大好きの私にとっては超楽しみなプログラムです。

前半のメインは、難曲として有名なショスタコーヴィチのバイオリンコンチェルト1番。この曲、ピアノ伴奏でオケパートを弾いたことがあるのですが、ソリストとオケパートを合わせるのが死ぬ程大変な曲です。この日の演奏は、指揮やオーケストラはもちろん、ソリストも素晴らしくて、手に汗握る良い緊張感に満ちた快演!

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そして、コンサートのクライマックスは後半のプロコフィエフの交響曲3番。

こういう、ロシアもののリズミックな曲を振らせたら、ユロフスキーの右に出る人はいないんじゃないかと思ってしまいます。

いわゆる巨匠と呼ばれる指揮者達によくある、指先だけちょちょちょっと振って最低限の動きだけでオケに音楽を伝える、というような振り方でなく、ユロフスキーの指揮は、全身を使って、まるでダンスや演技をしているかのような動き。なので、人によっては「やりすぎ」と思う人もいるかもしれないし、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、その動きが決して野暮ったくなく、あまりにもスタイリッシュなので、見ていて本当に快感なのです。そして、どんな小さな箇所でも、決していい加減にせず、全てはち切れんばかりのイメージに満ちている。

地の底から這い上がるようなおどろおどろしさや、透き通るような透明感や崇高さ、全てを破壊するかような爆発・・。様々なイメージが(もはや指揮者というよりActor?)と思ってしまう位Vividな彼の動きを通してオーケストラに伝わり、それが音楽となって観客である私達にも強烈に伝わってきます。

彼が振ると、音楽が隅から隅まで、まるで生き物のように、不思議なほど生命力に満ちて来るのです。

指揮者はオーケストラにテンポや拍、タイミングを伝える役目、と思いがちですが、それにも増して重要な役割は、音楽のそれぞれの箇所の「イメージ」を伝え、統合することなのだなぁと、彼の指揮を見ていると思わされます。

今回も、私も夫も大満足で帰ってきたPROMS。次の彼のコンサートは、9月下旬のロイヤルフェスティヴァルホールでのマーラー。とっても楽しみです!

批評もやはり賛否が分かれがちで、「いくらなんでも大袈裟に振りすぎ。解釈が極端。」と書かれていることもありますが(^ー^;) 若さの爆発の所以でしょう。 彼の指揮、私は大好きです。

それに彼はまだ30代と若いので可能性も無限。ゆくゆくは日本でもコンサートをしてくれるのではないかと思います。ロシア人指揮者ウラディミール・ユロフスキー、皆さん要チェックです!


ー Wikipedia   Vladimir Jurowski
ー ユロフスキーが常任指揮者をしているLPO (London Philharmonic Orchestra)の公式ウェブサイト
by sayaka-blmusic | 2010-08-25 03:20 | ロンドン音楽事情 | Comments(0)

ゲルギエフ指揮 World Orchestra for Peace

イギリスの夏といえば、 大音楽フェスティバルの「PROMS(プロムス)」! イギリスのTV局BBCが主催する音楽祭で、約2ヶ月間毎日、ロンドンのロイヤルアルバートホールを主会場として、世界中から様々なトップアーティストやオーケストラが、日替わりで演奏するのです。しかもチケットは驚きの5ポンド(約800円)から。

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上の写真が、プロムスの主会場となるRoyal Albert Hall。1871年に建てられた円形劇場です。イギリスに来て以来、毎夏最低10回はPROMSのコンサートに足を運んでいるのですが、去年は一時帰国していて一度も行けなかったのと、今年も7月中はバタバタしていて行けなかったので、昨日はとっても久しぶりのPROMSでした。

昨日8月5日の出演アーティストは、ゲルギエフ指揮World Orchestra for Peace。曲目はマーラーの交響曲4番(約55分)、そして後半が同じくマーラーの交響曲5番(約70分!)、というボリュームたっぷりのプログラム。

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開演前の会場。

ちなみに、このPROMSは、一階のフロア部分と最上階の回廊部分は当日売りに出される立ち見席で、5ポンドで買うことができます。人気のある公演では、昼頃からこの立ち見席を求めて長蛇の列ができることも。

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なので、上の写真の真ん中あたりにいらっしゃる数百人の皆さんは、2、3時間並んだ上に、コンサート中2時間以上、微動だにせずに立ったまま聴き続けるのです!!しかも若い人ならともかく、大部分は60過ぎた年配の方々・・。いやぁ、尊敬です。イギリス人は、銀行や郵便局の列といい、とにかく立ったまま並ぶのが大好きなのか慣れているのか、足腰が強いDNAでもあるとしか思えません。

ちなみに5年前のPROMSで、私も一度だけこのアリーナ立ち見席にトライしたことがあるのですが、前半の途中で既に足腰が痛くなり、後半のブラームスの交響曲1番最終楽章では、歓喜の歌のはずが足腰の痛みと戦うのに精一杯。

それ以来、同じ当日5ポンド席でも、一番上の回廊席専門に。ここだと、シートを持って行くと、なんとゴロ寝したりしながら、ピクニック状態で聴くことができるのです♪ ちなみに今回は、この回廊席から限りなく近い、最後列の普通席。ステージからはちょっと遠くて音響もあんまり良くないけれど、眺めだけは最高の席でした(笑)

さて、話は戻ってWorld Orchestra for Peace。

このWorld Orchestra for Peaceは、1985年に国連設立50周年を記念し、世界的指揮者のショルティを中心に、平和を願う活動に賛同した世界中のトップアーティスト達が集まって「平和の使節」として結成されたオーケストラ。

世界中のオーケストラからトップアーティスト達がスケジュールの合間を縫って、集まっているのですが、公式HPによると、このオケ内ではヒエラルキーは存在しなく、通常のオケでは実力順で決まる席順もここでは全てRotate制(毎回入れ替わりでぐるぐる席順が変わる)。またセクションリーダーも、コンサートごとに入れ替えるのだそうです。そして、チャリティ活動ということで、アーティスト達は基本的にノーギャラでのボランティア出演。

まさにマイケルジャクソンの「We are the world」のクラシックバージョンのような感じです。

1997年に亡くなったショルティに代わって、現在の音楽監督はロシア人指揮者のゲルギエフ。彼は自分の卒業した小学校がテロにあい、その小学校で追悼コンサートを行うほか、様々な戦争の犠牲者の追悼コンサートなども行っているようで、このオーケストラの他にも、平和のためのコンサートを色々行っているようです。

ピグミーの支援コンサートなどのこともあり、クラシック音楽が国際的な援助や活動のためにできることって何だろうと、ちょうど考えていたところだったので、このオーケストラやゲルギエフの活動は、本当に素晴らしいなぁと心から共感しました。

♪♪♪♪

前半のプログラム、マーラーの交響曲4番は、「天上の音楽」と言われているだけあって、マイナスイオンとアルファ波を身体中で浴び続けているかのような美しい曲。平和をテーマにしたこのオケにぴったりの曲でした。

そして後半の交響曲5番。映画「ベニスに死す」でも使われている、名曲中の名曲、第4楽章では、まるでオーケストラの祈りの歌のようなハープと弦楽器の静謐なアンサンブルに、思わず涙がこぼれてしまいました。

マーラーの音楽って、「メロディで聴かせる」というよりも、和音変化で聴かせる音楽だなぁと改めて感じました。思いもよらないテンションノートの使い方や、思いもよらない転調。でもそれらが、決して現代曲チックな訳分からない音楽の中ではなく、ウィーンの伝統に基づいた純クラシックの曲調の中であくまでも自然に起こるから、逆に引き立ってすごく新鮮に感じる。

ゲルギエフとWorld Orchestra for Peaceの演奏は、そんなマーラーの雄大な音楽を忠実に描き出そうとする、とても真摯な演奏だったと思います。


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終わった後、大歓声の中でカーテンコールが続く舞台。

クラシックやっている身でいうのもなんですが、
やっぱりクラシックのコンサートもいいなぁ・・、
と、なんだか改めて心から思ってしまいました。

なんていうか、すごくあったかい空気に包まれたコンサートでした。
きっとそれは、何よりもゲルギエフやオケのメンバーなど出演者一人一人が、本当に心から平和を願うあったかい気持ちがあったからこそなのかもなと思います。

コンサートの中で、彼らの活動の説明とか平和活動へのチャリティの呼びかけとかあるのかなぁと楽しみにしていたものの、特にそういう場面は無かったのですが、

でも、まずは、聴きにきた私達が、彼らの音楽によって、こんなに平和な満たされた気持ちで帰路につけさせてもらってことが、何よりの平和への第一歩なのかもな、と思いました。
by sayaka-blmusic | 2010-08-07 04:03 | ロンドン音楽事情 | Comments(2)

ロンドン中の道ばたにピアノが出現!!


もしも公園の真ん中にピアノがあって、
通りかかったおじいさんが懐かしの曲を奏でたり、
子供たちが今習っている曲を弾いてみたり、
そしてそれをきっかけに、そこに集う人々の間にコミュニケーションが生まれ、
ひとときの素敵な空間がうまれたなら・・。

でも実際、そんなこと、雨の問題もあるし、
ピアノの盗難の心配もあるし、実現不可能な話だよな・・。

と思ってしまいそうになりますが、

なーーんとそれを本当に実現してしまっているのがロンドン!!!

City of London Festival の一環として「Play me! I'm yours」という名前のストリートピアノフェスティバルが2008年から毎年行われているのです。今年はNew Yorkでも同時に行われているそうです。

毎年6月から7月にかけての期間のみですが、ロンドン内の公園やパブリックスクエア、遊歩道など、合計21カ所に、21台のアップライトピアノが置かれ、期間中、通りかかった人は誰でも演奏して良いことになっています。当然、弾くのも聴くのも無料です。警備員もいません。完全放置状態(!)です。

ロンドンで仲良くさせて頂いているお友達Chigusaさんからこのことを教えて頂いて、先週末、Chigusaさんと一緒に、21カ所のうちのひとつであるハムステッドヒースのピアノを弾きに行ってきました。

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ハムステッドヒースはロンドン北部に広がる巨大な公園で、入り口がいくつもあるのですが、Highgate Road側の入り口から入って少し歩いたところに、バンドスタンドがあり、そこに古—いアンティークのようなピアノが可愛らしく置かれていました。

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ポロポロと単音の音が聞こえてくるので近づいてみると、40代位のイギリス人のおじさんが、鍵盤を触っていて、「僕は何の曲も思い出せないから、もし何か曲を覚えているようだったら是非弾いて!だいたいの音は鳴るよ! 」とおじさん。

え、だいたい?(^-^;)ってことは出ない音もあるってことよね?

と思いながら恐る恐る弾いてみると、素晴らしく年季の入ったピアノで(笑)音が狂いまくっているのはもちろんのこと、高音域や低音域は音の出ない場所も沢山。

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アップライトの前面のふたが壊れていて中がむき出しになっていて、しかもハンマーが数本折れて無くなっています。弦が切れて音が鳴らないピアノは見たことあるけど、ハンマーが折れて鳴らなくなっているピアノは生まれて初めてみました。

このフェスティバルで使われているピアノは、全て寄付によるものだそうです。

不思議なことに、バッチリ音の出る新品のピアノより、この壊れかけたピアノの方が、公園の緑と風の中に合っている気がしてすごく気持ちよくて、弾いているうちに最高のピアノのような錯覚に陥ってきました(^-^)

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私がドビュッシーやオリジナル曲を弾いたり(ラフマニノフはこのピアノではちょっと不可能。というかピアノが壊れるかも 笑) Chigusaさんが日本の歌を演奏したり、Chigusaさんと連弾したりしている様子を、おじさんはニコニコしながら一生懸命聴いてくれて色々感想をくれました。

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せっかくだからおじさんも一緒に連弾しましょう!ということになり、
いつも夫とのセッションで使っているジャズのReal Book(コードとメロディの書いてあるソングブック)を持ってきていたので、おじさんにメロディを弾いてもらい、私が伴奏をつけて連弾をしてみることに。おじさんの思い出の曲だという「God Bress' the Child」や「Little Boat」、私の好きなKeith Jarretの「Memories of Tomorrow」などなど。

他に弾きたい人も現れなかったので、ずっと3人で組み合わせを変えながらあれこれ連弾で弾き続けていたら、あっという間に1時間半近くが経過。

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終わった後、Chigusaさんとおじさんと3人で。こうやって知らない人と音楽を通じて知り合えたり、風と緑の中で、きままに好きな曲を弾けるなんて、本当に素敵なことだなぁと心から感じました。

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ところで、Chigusaさんから、この場所も素敵だけれども、更に絶景のところにピアノが置いてあるとの情報を入手。なんでも、ロンドンを象徴するあの「タワーブリッジ」が正面に見えるテムズ側沿いに、ピアノが設置してあるとのこと。

これはフェスティヴァル終了前に是非行ってみなければ!ということで、
先週末、夫と一緒に行ってみました。

ロンドンの金融街Monument駅からテムズ側沿いの遊歩道に出てタワーブリッジ側に少し歩いたところにピアノを発見!

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ピアノの真後ろにタワーブリッジ!! まさに絶景です!!!!!!

水辺でピアノが痛みやすいせいか、ハムステッドヒースのピアノにも増して音が狂っていたピアノでしたが、テムズ側やタワーブリッジを眺めながらピアノを弾いていると、なんだか現実味がないような、どこかに意識がトリップするような不思議な感覚になりました。

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今週9日のピグミーイベントで弾く予定のオリジナルを何曲かソロで弾いてみました。こんな絶景を眺めながらピアノを弾けることは、この先恐らく機会が無いでしょう。。

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その後、時々ぽつぽつ通りかかる観光客や通行人の方々から声援を頂きつつ、夫のトランペット(夫は趣味でトランペットをやっています)とピアノのアンサンブルで、「Misty」「A Child is Born」などのジャズのスタンダードを数曲演奏したり、即興セッションをしたり、日本の「赤とんぼ」を弾いたりして、大満足で帰ってきました。

それにしてもこんな絶景で、弾きたい人続出でさぞかし並んでいるかと思いきや、私達の他に殆ど誰もいなかったのが不思議。まだ3年目ということもあり、イギリス人の間でもまだあまり知られていないイベントのようなので、もっと口コミで広がれば、もっと沢山の音楽好きの人たちに弾いてもらえるのではないかなと思います。

2010年は7月10日までピアノが設置されているそうです。
子供でも大人でも、初心者でもプロでも、本当に誰でもどんな曲でも好きなように弾き放題とのことなので(実際聴いている人も少ないので全然恥ずかしくないと思います)ロンドンにお住まいの方でピアノがお好きな方は是非HPをチェックしてピアノを弾きに行ってみて下さい!

City of London Festival「Play me! I’m Yours 2010」ホームページはこちら
(ロンドン内のピアノ設置場所一覧の地図もあります)
http://www.streetpianos.com/london2010/

昨年のストリートピアノについてChigusaさんがレポートされている素晴らしい記事はこちら!
このイベントが始まることになったきっかけなども載っています。
http://www.piano.or.jp/report/02soc/london/2009/08/26_9937.html

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ところで、雨が降ったら、これらのピアノはどうするのかという問題についてですが、基本的に放置みたいです(笑) 一応ビニールシートが置いてあって、雨が降ってきたら気づいたら誰かがかけてあげるようになっているのですが、ピアノのふた部分位しか覆えないので、多分殆ど意味無し^^; 濡れたい放題です。

また盗難についてですが、去年のHPを見てみると、やはり一カ所で盗まれてしまった場所があったようです。その後もピアノは行方不明とのこと。犯人はよっぽどピアノが欲しかったのか、それとも売りたかったのか分かりませんが、ピアノには「Play me I’m yours!」と思いっきりペイントしてあるし、しかも壊れまくっているピアノを、その後持っていても売っても、リスクしかない気が・・。

今回初めてこのイベントを体験してみて、このようなストリートピアノが日本では実現しにくい理由がなんとなく分かった気がしました。

良くも悪くも完璧主義でなく何事も「まいっか」で済ませられるイギリスだからこそ、そしてピアノメーカーの少ない国だからこそ、このイベントが成り立っているのかもしれません。

日本のように、大手ピアノメーカーが多い国だと、ストリートピアノに提供されるピアノもきっとこれらの日本製のピアノが多くなり、そうなると、メーカーとしてはやはり当然、メーカーの名をかけて最高の状態のピアノを置きたくなる。そうなると、やれ調律はどうする、雨が降ったらどうする、盗難の場合は?警備員の配置は?など、永久に問題が山積みになってしまって、なかなか実現には至らないのかも。

でも個人的には、世界的なピアノメーカーを持つ日本だからこそ(ヨーロッパでもYAMAHAやKAWAIの評判やシェア率はものすごく高いです)、そして地域社会での世代を超えたコミュニケーションが希薄になってきてしまっている日本だからこそ、是非実現して欲しいイベントだなぁと思います。
by sayaka-blmusic | 2010-07-06 20:48 | ロンドン音楽事情 | Comments(12)

チベット僧の音楽&ダンス体験



前回の「アフガン音楽を聞く夕べ」に続いて、今回もロンドン西部アクトンにある「Asian Music Centre」主催のイベントに行ってきました。

今回のイベントは、「チベット僧の音楽」とテーマにしたワークショップ。チベット仏教や、チベット僧の生活や音楽については、私自身何も知識がないので、全くゼロの知識のままワクワクして向かいました。

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ワークショップで、実際に歌や演奏、踊りを披露して下さったのは、はるばるチベットの僧院から来た、本物のラマ僧の方々!!

チベット仏教といっても、やはり「仏教」の一種なので、お経の部分は、日本のお経とも少し共通するところがあるような感じがしたのだけど、やはりなんといっても違うのは、日本のお経と比べて、圧倒的に「音楽」であること!

7人位の合唱形式で唱えて(歌って)くれたお経は、ところどころ多声部になっていたり、フーガのように対位法的になっていたり、ラッパや打楽器、ベルなどが入ったりします。

お経のようでお経でない。歌のようでいて、歌でもない。不思議な音楽でした。

中でも驚いてしまったのが、この巨大な長———いラッパの、轟音!
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ぶおおおおおおおおおん!!と狭い部屋の中で最初に鳴り響いた瞬間は、そのあまりの迫力と、独特の音色に驚いて、鳥肌がたってしまいました。

音程は口元のみで変えるみたいなのですが、ちゃんと低い音と高い音が出し分けたり音程をつけることができる楽器みたいです。

ぶおおおおおお、ぽーーーー。
ぶおおおおおお、ぽーーーー。

と、低い音と高い音を、順番に出すのですが、これがなぜか決まって毎回、低いシ♭と一オクターブ上のド、という長9度の関係。この少し不自然な響きが、かえって神聖さをかもしだしていて不思議な感じでした。

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こちらは打楽器奏者。ドラのようなドラムを、木の棒(背中マッサージ棒に見えるのは私だけでしょうか…)で鳴らしつつ、手元ではお皿を二枚合わせたようなシンバルを叩きます。一人二役です。


音楽の後は、続いてダンスを披露して下さいました。
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打楽器と管楽器に合わせて踊る僧。
拍子があるかと思ったら、突然なくなったりと、これまた不思議なリズムと拍子。
あえていえば、日本の能に近い感じもしたけれども、能のような「ぴん」と張りつめた緊張感はなくて、かなり脱力して踊る感じのダンスでした。

ちなみに踊りの意味も、衣装の意味も、邪悪を追い払う意味なのだとか。

へええええ…と思って見ていたら、突然
「それでは、皆さんも一緒に踊ってみましょう!」ということに!

そして観客全員で(といっても10人弱)、2列になって、チベット僧直伝の踊り講座。いやーまさか、チベット僧の踊りまで習えるとは思っていませんでした(笑)貴重な体験です。

踊りを教える時のかけ声で「チ、二、スム、シー」と言っていたのですが、これはチベット語の「いちにーさんしー」にあたるものらしいです。日本語に限りなく似ているのでびっくり。ちなみにチベット語は、日本語とほぼ文法が同じらしいです。顔立ちもよく似ているし、やはり同じルーツなのだなぁと実感。


ダンスの次に行われたのは、チベット僧のディベート(問答)のシミュレーション。
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修行の一つとして行われるものだとのことです。手をぱーーんと打ち鳴らしながら、議論の声が飛び交うのですが、静かに真面目に行われるものというより、周りもヤジを飛ばしたり、笑ったり、一緒に参戦したりと、まるで白熱したスポーツの試合のような盛り上がり。
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白熱すると、こんな感じで一人の僧を皆でよってたかって質問攻めにしたりも。

チベット語なので何言っているかさっぱり分からないのですが、それでも見ているだけでエキサイティングでした。


ワークショップが終わった後、好きな楽器を体験させてもらえるということになり、私は一番興味のあった巨大ラッパへまっしぐら!
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ふーーっと息を入れてみたものの全然音がでなくて隣の本物の僧侶さんに笑われてしまっている図…。

その後、思いっきりおなかから息を吹き入れたら、なんとか音は出たものの、中途半端な音が出るだけで、とても彼らのような太くて幻想的な音は出ませんでした。チベット僧は最低15年から20年の修行を積まなくてはいけないそうなのですが、きっとこのラッパも修行が必要なのですね…^^;

ちなみに、こんな長い笛どうやって持ち運ぶんだろう…と思ったら、
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こんな風に縮んでコンパクトになるようです。


下の写真は、日本のでんでん太鼓にそっくりな打楽器。これもお経と共に使われていました。
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でんでん太鼓は、元は雅楽で使われる「振鼓」が元らしいので、やはり大元の由来は同じなのかも。

下の写真は、一見、仏壇の前にあるチーンとならす鈴に見えますが、これも実はれっきとした楽器。
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打ち鳴らすのではなく、上の写真の用に、棒でふちをぐるぐるとこすって音を出すと、「ぅうわああああああん」と、宇宙的な響きが広がります。

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ということで、本当に貴重な経験をさせて頂いた「チベット僧の音楽」のワークショップ。

これまで聞いたこともない音楽、響きを聞くと、今までの人生で一度も刺激されなかった脳みその部分が、突然刺激されて呼び覚まされるようで、本当にドキドキする体験です。

この間のアフガン音楽を聞いた時にも感じたけれども、自分が今まで「音楽」だと思ってきたものは、世界に存在する音楽の、ほんの一部でしかなかったことを痛感させられます。

世界にはまだまだ、私の想像も及ばないような、素敵な素敵な音楽があるのだと思うと、この先の人生でどんな響きに出会えるのか、本当に楽しみです。
by sayaka-blmusic | 2009-12-09 08:43 | ロンドン音楽事情

ロンドンの隠れ音楽スポット「楽譜の古本屋さん」


ロンドンの一角に、楽譜や音楽書籍の古本専門のお店があるという噂を聞きつけ、先々週の週末に行ってきました。

Edgeware Road駅から少し奥に入った静かな裏通りに、突如現れた雑多な店頭。

古本屋さん…というより、店自体が本にうずもれている感じです…。

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半分びくびくしながら店に入ると、まるで絵に書いたようなイメージ通りの「イギリスの古本屋さんのご主人」 が(笑)、すごく優しくあれこれ案内をしてくれました。

楽譜は主に地下だよ〜と案内され地下へ。


地下へ行く階段も
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ひたすら楽譜と音楽書!

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もはや本棚に並べるスペースすらなく、段ボールに入って積み重なっている膨大な数の楽譜。これでもちゃんと、楽器ごと、作曲家ごとになっていました。

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ピアノ譜をはじめ、いろいろな楽器の譜面や、室内楽の楽譜、オーケストラのスコアまで、そして世界中の新旧様々なエディションの楽譜が揃っていて、おもわず歓声をあげてしまいました。すごい!!これはほんとに宝の山です。

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鍵盤の白い部分が半分くらいはがれおちてしまっている古〜いピアノが古本にまみれてうずもれていました。「最近調律したばかりのピアノだよ〜」と、トンでもなく狂った音のピアノのキーを叩きながらご主人が紹介してくれました。うーむこれってホントに調律したんだろうか…それともご主人の一種のブリティッシュジョーク?? 

それにしても、この破れかけた古い楽譜の山の中に、これまた壊れかけたボロボロピアノが、あまりにもしっくり似合いすぎていて、もしかしたら本当に、ここで夜な夜な作曲家の霊たちが集まってこのピアノを囲んでミニコンサートをしているのかも??と思ってしまう位、なんだか不思議な雰囲気に満ちた空間でした。


お目当てのラフマニノフの変わった版の楽譜とかはあまり見つからなかったのですが、代わりに大豊作だったのが、今通っている作曲のクラスで使う参考書類。

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オーケストレーションの本から、対位法の本などなど、この中の数冊は、実際にクラスでおすすめ参考図書として紹介されていて、アマゾンで調べたら一冊40ポンド位もするので諦めていた本もなんとここで発見!しかもこれらのハードカバーの本が、なんと2、3ポンド。安いものは1ポンド以下! きゃああ本当に宝の山です。

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あと面白かったのは、珍しいアフリカ音楽のピアノ楽譜。アフリカ民謡などを元にしたクラシック曲の作曲家といては、イギリスではコールリッジテイラーが有名だけれども、おそらくその流れを組んだ新しい作曲家たちのピアノ曲集やCDなど。最近、民族音楽をモチーフにしたピアノ曲作曲にもすごーく興味があるところだったのでとってもタイムリー!ちなみにこれらの楽譜は古い楽譜でなくて最近出版された新品。このような新古品の楽譜も格安でいくつか売っていました。

一緒に行った夫も、トランペットの楽譜や、ジャズ、ブルースの本など沢山見つかって大喜びで、「今度はお弁当持って一日がかりで来よう!」と言い出すほど(笑)

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店のご主人と記念に一枚。

私たちが夢中になって楽譜などをあさっていたら、おじさん「紅茶でも飲むかい?」と声をかけてくれて、おじさんご自身の水筒からトクトクトクとマグカップに紅茶を注いで淹れて下さいました。ビスケットもたべるかい?とビスケットまで出してくれて、本にかこまれてしばし休憩タイム。おじさんが約40年前にこのお店を始めた時の話など、色々伺っていました。

今や日本では、古本マーケットはすっかり一大市場になってしまって、コンビニの数と同じくらいBOOK OFFの数がある、という状況になってしまったけど(ちなみに私はBOOK OFFも大好きだけれども)、こういう風に、人と人がつながり合えて、カビとほこりの中でボロボロの本の中からお気に入りの一冊を見つけることのできる小さな古本屋さんも、古本屋の原点らしくて本当にいいなぁ…と思います。

このお店の雰囲気とおじさんの温かい心配りにあまりにも感動して、「ブログで写真付きで紹介してもいいですか?」と聞いたら、恥ずかしそうに一応OKを出してくれたので、ここでご紹介。

Archive Bookstore (最寄り駅 ロンドン Edgeware Road駅)
http://www.archivebookstore.co.uk/
83 Bell Street
London NW1 6TB

ロンドン在住の方はもちろん、ご旅行でロンドンに行かれる方も、音楽好きの方だったら、きっとお気に入りのお宝の一冊を見つけられるお店だと思います。

ただしカビ、ホコリアレルギーの方はご注意〜〜(私もしばらくくしゃみと鼻水がとまりませんでした…笑)
by sayaka-blmusic | 2009-11-23 11:05 | ロンドン音楽事情

アフガン音楽の夕べ


ロンドン西部のアクトンにある「Asian Music Centre」で開催されたアフガン音楽のリハーサルを聴きに行ってきました。今まで一度も耳にしたことのないアフガニスタンの音楽を聴けるということで始まる前からとっても楽しみ!

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コンサートではなくリハーサル、ということで入場はなんと無料。じゅうたん敷きの部屋に、演奏者が輪のように座り、観客である私達がそのまわりを囲んでじゅうたんにペタンと座って聴くという、なんとも幻想的な雰囲気の中での演奏。

音楽が始まると、今まで聴いたことのない独特の響きとリズムに、一瞬で魂をもっていかれてしまいました。

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こちらはアフガニスタンの音楽で主役級の大事な役割を果たすギターのような楽器、RUBAB(日本語ではルバーブともラバブとも呼ばれるみたいです)。どこか物悲しく優しい響きのする、本当に美しい音色の楽器です。

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タブラというドラム。ぼわんという、まるで水の中で鳴っている音のような、なんともいえない素敵な味のある音がします。インドの音楽にもよく使われる楽器だそうです。

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終わった後にアップで撮らせて頂いたタブラの写真。下についているワインのコルクのような部分を上下に調節して、音の高さや音質を調節するのだそうです。

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ハルモニュームという鍵盤楽器。鍵盤の反対側(写真でいうと右側部分)が、まるで開きかけの引き出しのようにぽこぽこ開きます。ここを手で動かして空気を送り込み、音を出すのだそうです。原始的な手動オルガンといった感じかも。こちらもインド音楽でも使われます。


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歌のついている曲もいくつかあり、それぞれの曲の前に歌詞を解説して下さったのですが、内容は、宗教上の歌、恋の歌、戦争に行く子供を案ずる母の歌、などなどなど。どこの国でも、神様への賛美と、恋愛と、親子の絆は、永遠のテーマなのだなぁ・・と実感。

歌の歌詞や、楽器の珍しさと共に、もう一つ最も興味深かったのが、曲で使われている旋法(モード・スケール)の多様さ。それぞれの民族音楽には、例えば沖縄音階(ドミファソシド)やスパニッシュモードのように、固有の旋法があることが多いのです。アフガニスタンの音楽も基本的にコードでなくモード(旋法)がベースで作られているのですが、そのモードが一種類でなく、曲によって実に様々。ある曲はメジャーペンタトニックスケール(ドレミソラド)のみ、ある曲はフリジアンモード(ド♭レ♭ミファソ♭ラ♭シド)のみを忠実に使って作られているかと思えば、ある曲は、上行形が沖縄音階(ドミファソシド)に似た音階、下行形はミクソリディアン(ド♭シラソファミレド)に似た音階と、不思議なミックスによる独特の音階が使われていたり、ある曲はいかにもイスラム的な音階だったり・・、と本当に様々。

あまりにも興味深かったので、終わった後、ルバーブを弾いていた奏者の方に、アフガン音楽における旋法について質問しに行ったら、重要なポイントをいくつか教えて下さった後名刺を下さって、ここにメールをくれれば、更に詳しい資料を送ってあげるよーと言って下さいました。名刺をふと見たら、ロンドン大学ゴールドスミス校の民族音楽学の教授! まさにアフガン音楽における旋法の研究をされている方でした。(その後メールでやりとりして、本当に資料を送って頂けることに!今楽しみに待っているところです)


アフガニスタンは、シルクロードの十字路ともいわれ、海上輸送がメインの貿易手段となる前は、東西交易の重要な場所として様々な地域の人々が流入し、そのため、地域によってペルシャ音楽、インド音楽など異なる地域から影響を受けている音楽が発達していったそうです。アフガン音楽における旋法の多様さや独特さは、もしかしてこういうようなところから来ているのかなぁ・・とも思います。

今でこそ、クラシックとジャズ、ロックと民族音楽などなど様々なジャンルのフュージョンやクロスオーバーが一般的になってきていますが、もしかしたらアフガニスタン音楽は、世界最古の「フュージョン音楽」だったのかもしれません。

コンサートの最後に、来賓でいらしていたアフガニスタン大使からの挨拶とメッセージ。アフガニスタンというとやはり今はマシンガンや戦争のイメージだけれども、元々は音楽を愛する人々の国。早く、人々が心から自分達の音楽を奏でたり聴いたりすることを楽しめるような、そのような日々が戻ることを祈ってやまないと言っていました。

(今でこそ、アフガニスタンで若者によるポップスも少しずつ盛んになってきているようですが、タリバン政権真っ最中の頃は、音楽を弾くことだけでなく聴くことも禁止されていたそうです)


世界には、まだまだ私の知らない様々な音楽があるんだ・・ということを改めて思い知らされた一夜でした。

日本やヨーロッパの殆どの「音楽大学」では、ピアノを専攻した場合、基本的には西洋音楽、しかも限られた時代のクラシック音楽だけを勉強して、自国の日本音楽すらまともに勉強しないまま、音楽の全体像を知った気になって卒業してしまう(私もその一人)のは、実はすごくもったないないことなんじゃないかな・・・と思います。
by sayaka-blmusic | 2009-11-20 01:12 | ロンドン音楽事情

作曲のクラス


自分の作曲の幅をもっと広げたくて、
現在ロンドンのとある音楽学校の作曲の夜間コースに通っています。

クラシックとジャズの和声理論、コードやモードの理論をふまえた上で、それをどうやって実際の作曲、特にFilm Music(映画音楽)などの作曲に生かしていくかという授業。

自分が今作曲しているピアノ曲のジャンルが、クラシックでもジャズでもなくてどれかというと映画音楽やフュージョンに近いのと、今後映像などとのコラボレーションにもとっても興味があったので、この授業の趣旨と方向性は、今の私の興味のど真ん中ストライク!

余談ですが、ラフマニノフの曲(特にオケの曲)って、クラシックの作曲家の中でダントツに映画音楽に近い気がする。実際映画にもよく使われているし。


さて、このコースを担当している先生は、
実際にイギリスのTV音楽や映画音楽を制作しているイギリス人作曲家。

様々なジャンルの曲の分析をしながら、実際の映画音楽で使われている手法、オーケストレーションの実際的なテクニックなどなどを学んでいます。

教材のジャンルは実に多岐に渡っていて、バッハのマタイ受難曲、ラヴェルやドビュッシーなどフランスものの弦楽四重奏の分析の他、イギリスらしくビートルズの曲のバックの弦楽四重奏パートの分析とか、スターウォーズやインディージョーンズなどで知られる映画音楽の大家ジョン・ウィリアムズを始め、様々な映画音楽の曲の分析などなど。

展覧会の絵や、ラヴェルのマ・メール・ロワなど、ピアノバージョンとオーケストラバージョンが両方存在する曲に関しては、その比較などをしながら、効果的なオーケストレーションに関してディスカッションしたりしていきます。あーーーーこういう授業、ラフマニノフの交響曲ピアノソロバージョン作る前に受けていれば、あんなに四苦八苦しないでもっと楽に編曲できていたかもしれない・・・(T T)

音大の音楽理論や和声の授業では、当然のことながらクラシックの曲の分析しかしてこなかったので、このように様々なジャンルの曲を、様々な方向性から分析する多角的アプローチは、私にとって本当に新鮮。

最近ラフマのソナタを練習していて改めて強く実感したのだけど、はっきりいって、ラフマニノフの曲とかは、クラシックの和声理論のみよりも、ジャズの理論も併用して分析した方が、はるかに分析しやすいし、暗譜もしやすい。ラフマのソナタ2番2楽章の冒頭テーマなんて、思いっきりジャズの典型のツーファイブの連続だし、使われているテンションもジャズと共通しているものがかなり多いし。



このクラスは、宿題もかなり実践的で、映画音楽の王道であるモードを多用した作曲方法(ドリアンのみ、フリジアンのみでの曲作りなど)など、毎回異なる宿題テーマが課されて、そのテーマに沿って、各自PCのシーケンサーで丸々一曲作曲し、更にオーケストレーションして持ち寄り、次の授業で、お互いの作ってきた曲を聴きあってディスカッションをしたりします。

授業の内容も、宿題の内容も、あんまりにも今の自分にとって面白くて、最初の数回の授業では、興奮しすぎて鼻血・・・こそ出なかったものの、酸欠状態になってしまったほど。ヒトって自分の興味のストライクゾーンのことに出会うと、じっとしてても酸欠(逆に過呼吸?とにかく呼吸困難状態)になるんだってこと初めて知りました・・・。

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さて、このクラスは少人数制で生徒は私を含めて4人。このコースはある程度既に作曲や音楽活動のバックグラウンドがある人対象のコースなのですが、そのバックグラウンドが皆さまざま。

一人目はイギリス人のCくん。

一度彼の作曲の宿題を初めて聴いたとき、そのまんまディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーで流れていてもおかしくないようなセンスと完成度の高さに仰天し、「この人、どう考えてもプロ!! 」と思って、授業のあとに直接本人に聞いたら、彼はダンスミュージックなどの作曲をしながらDJとして10年以上イギリス各地で活動した後、自分で音楽製作会社を設立し、BBCやMSNを顧客に音楽提供をしているというホントのプロでした・・・・・・。 彼は今更クラスを受ける必要があるんだろうかと疑問に思うんだけど、本人曰く、感覚だけで作ってきたから理論に自信がなくて、このクラスを取ることにしたのだとのこと。 毎回、彼の宿題はめちゃくちゃ聴くのが楽しみ!

もう一人の生徒はロシア人のSちゃん。 ロシアでバリバリのクラシックピアノの英才教育を受けてきたのだけど、数年前にロシアでなんと宮崎駿の映画を見て、久石壌の音楽に感激し、アニメ映画音楽を勉強するためにロンドンに来たのだそうです。一年目は大学院で映像音楽を実践的に学んでいて、今年は更に作曲に焦点を宛てて学ぶ為に、このコースを取ったのだそうです。今から数年はロンドンにいるけれども、いつか日本でアニメーション映画の音楽制作に関わるのが夢なのだそうです。

私はラフマニノフが好きで好きで、ロンドンでも日本でもラフマニノフばかり演奏しているんだということを言うと、「ロシア人の私が日本に行くのが夢で、日本人のあなたがロシアのラフマニノフを演奏してて、それでお互いロンドンにいるって、なんだか不思議な感じね」と笑っていました。

そんなんで、皆全く別々のバックグラウンドを持ちながらそれぞれ生み出す音楽は、個性に溢れていて、同じ課題に対しても、全くテイストの違うものが出来上がってきます。 毎回の皆の宿題を聴いたり、ディスカッションをしたりしながら刺激を受けるのが、楽しくてしょうがないです。

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音楽とは本当に幅広くて、
今この瞬間にも、世界中の様々な場所で様々な人たちが、
それぞれ湧き上がる気持ちを音にして、新しい曲や歌が生まれている。

今まで20年以上ずっと、弾く側のみにいたけれど、
作る側にも立ってみて初めて気づいた、大切な沢山のこと。 

今まで何気なく弾いてきたベートーベンやモーツァルトなどのピアノの作品も、どこか、ただ弾きこなすための「テキスト」として捉えてしまっていたのだけど、どんなに素晴らしい「芸術作品」だったのかいうことも、作曲を学べば学ぶほど改めて気づかされています。

自分の中で、ここ最近、音楽に対しての観念が
ガラガラと音を立てて変わっていっているのを、感じています。

音楽ってやっぱり、本当に素晴らしい。
by sayaka-blmusic | 2009-11-14 08:40 | ロンドン音楽事情